江戸の同心たちの格闘術! 知られざる「十手術(じってじゅつ)」の技法

歴史トピック
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はじめに:十手(じって)は警察手帳のようなもので、武器ではなかったって本当??

小説でも映画でも、時代劇で花形のイメージがある職業の一つに「同心」が挙げられます。
すごく大まかにいうと現代の警察官のようなものともいえ、「御用だ御用だ!」と犯罪者を検挙するカタルシスは不動の人気シーンの一つでしょう。

そんな同心を象徴する道具として「十手(じって)」を思い描くのは、ふだんあまり時代劇になじみがない人でも比較的容易なのではないでしょうか。
短い金属製の棒に柄巻きがあり、握りの上にはL字状のフックが付いているという、実に特徴的な武具です。

これはいうなれば警察権力の象徴として、現代の警察手帳のような役割も果たしたものであることが知られています。
もちろん捕り物や乱闘の際には武器として用いるケースもあったはずですが、その短さや真剣と比較した場合の攻撃力などから、その有効性を疑問視する声もあるでしょう。

しかしながら、この十手はれっきとした武具であり、これを操るための「十手術」という武術が工夫研鑽されて現代にまで古武道として継承されているのです。
本記事では、江戸時代の同心たちが格闘術として用いたであろう十手の技について、現存流派の公開情報をもとに解説します。

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「江戸町方十手捕縄扱い様」とは?

「十手術」という独立したジャンルの武術が存在することは既に述べた通りですが、刃が付いていない打撃武器としての特性は、犯罪者を原則として殺傷せずに取り押さえる必要があった同心たちの「逮捕術」としてすぐれた適性をもっていました。

そこで八代将軍・徳川吉宗の時代に、諸国に伝わる30数流派の十手の技を研究し、ロープで捕縛する「早縄」の術とあわせて体系化したのが「江戸町方十手捕縄扱い様」です。
これは現在、「正木会」とおっしゃる古武道団体が伝承しており、同会は殿中において刃物を使うことなく凶漢を制圧するための、鎖の両端に分銅がついた「萬力鎖」という武器を扱う技などを稽古されています。

以下に正木会の公式動画を掲載します。

十手術の技法的な特徴とは?

では、十手とは具体的にどのような用い方をするのでしょうか。
上記の流派では「一尺六寸(約48.5cm)」と長さが定められていますが、現存するものにはさまざまな長さや形状のバリエーションがあり一様ではありません。
それでも特別に長いものを除けばいずれも脇差以下の短い武器であることから、小太刀術系統の技に類似した使い方も認められます。

以下に十手術の特徴的な技法をいくつかご紹介しましょう。

L字状の「鈎(かぎ)」による防御

十手の外見的な特徴として、手元に設けられたL字状の部材があります。
これは鍔の代わりになり、この部分で敵の刃を受けたり、刀を絡めとったりといった使い方をします。

十手の構えも順手だけではなく逆手に持つ形もあり、前腕を金属棒で覆って盾のように用いながら敵との距離を詰めるといった動作も特徴的です。

多彩な体術の併用

十手術では武器の短さを補うように、多彩な体術を併用することも大きな特徴です。
瞬間的に敵との間合いを詰める足捌きや、背後を取るかのような鋭い体捌き、「当身(あてみ)」と呼ばれるパンチ・キック・足払いなどの打撃技が随所に見られます。

また、目的はあくまで犯罪者等の捕縛であることから止めを刺すのではなく、最終的には柔術のような関節技で制圧することもまさしく「捕方」の技といえるでしょう。

二丁十手

両手に十手を携えて戦う、いわば二刀小太刀のような技も伝わっています。
前述の「江戸町方十手捕縄扱い様」では通常の十手の他に、L字状の鈎が付いていない「なえし」とい警棒のようなものも使う「双角(そうかく)」という形があります。

この二つをクロスさせるようにして相手の斬撃を受け止めたり、刀の刃を滑らせるようにして間合いを詰めたりといった巧みな技が印象的です。

なお、福岡藩に伝わった「神道夢想流杖術」は警察の逮捕術に採用されたことが有名ですが、これに併伝される「一角流十手術」では十手の他に鉄扇を使って同じく二丁の技を展開します。

まとめ:時代小説の解像度アップのため

「十手術」という武術が実在し、しかも現存することについても驚きですが、江戸時代の同心たちが実際にこの技を修練したこともあまり知られていないのではないでしょうか。

現実に刀を持って暴れる凶漢の捕縛に向かったこともあったでしょうし、まさしく命がけの任務で身を守ってくれるのは、鍛錬を積んだ技術でした。
しかも相手を可能な限り傷付けずに捕縛するという高難度のミッションに対応する必要があったため、切実な需要のもとに研鑽された武術であったことが偲ばれます。

十手は短く、刃も付いていないことから有効な武器ではないという論説も無理からぬことですが、これを逮捕術として巧みに用いた先人たちに思いを馳せることも、時代小説の制作や鑑賞に別種の味わいをもたらすものと感じました。
ここに時代小説の書き手の一人として、知りえたことを記すものです。

記:帯刀古禄

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