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小説で「おいしそう!」と思わせるコツとは? 食べものシーン3つの描写ポイントを考察!

物書きばなし
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食いしん坊な私は小説でも、料理がテーマだったりおいしいものが登場したりする作品が大好きです。

特段に食事がメインの物語ではなくとも、例えば池波正太郎さんの『剣客商売』など食べものの描写が一種の名物になっていますね。
食に関わる描写は文章表現でも難しい部類といわれていますが、愛される作品には思わず「おいしそう!」と思わせる食べものシーンが散りばめられているように思います。

本稿ではそんな小説における食べもの描写について重要と思われる、3つのポイントを考察してみました。

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“五感”を段階的に描写する

五感とはいうまでもなく聴覚・嗅覚・視覚・触覚・味覚のことですが、文章だけでいかにもおいしそうだと思わせるにはこれらを効果的に描写するのが一つのポイントではないでしょうか。

料理の味や見た目に関する記述は当然重要ですが、例えば調理段階から描写するとしたらまずは食材を洗ったり切ったり炒めたりする音が聴覚に訴えるでしょう。

すると今度は徐々においしそうな匂いもしてくるはずで、食材が肉か魚か野菜かはもちろん、焼く・揚げる・煮る・蒸すなどの調理法によって嗅覚への刺激も異なります。

出来上がって運ばれてきた料理の視覚情報を丁寧に描写すると、読者にもその楽しさが伝わります。

そして器を手にしたときの温度感やカトラリーの手触り等々、肌に迫る触覚も重要ですね。
料理を口に運んでの味覚に関しては言うにおよばずですが、この時改めて香りや温度、歯触り・口当たり・のど越し、咀嚼する音といった他の五感も複合的に呼び起こされます。

基本的に文章がメインの小説ではいかに読者の「共感覚」を喚起するかが課題で、優れた作品の食べものシーンはこのように五感をフル活用した描写がなされていると感じます。


剣客商売一 剣客商売(新潮文庫)

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“シチュエーション”を作り込む

最近では「おひとりさま」の食事シーンも増えてきた印象がありますが、食にまつわるシチュエーションを描くのも重要ではないかと考えます。

「どこで・何を・いつ・誰と」食べるのかによって、料理の味わいも意味付けも大きく変わってくるためです。

一皿の味覚や外観を丁寧に描くことも大切ですが、それを取り巻く食卓全体を読者に感じさせることでより臨場感が増すのではないでしょうか。

例えばファンタジー小説でしばしば憩いの場として描かれる酒場は、登場する飲食物でその土地の風物や経済力など広範にわたって情報の奥行きをもたせることが可能な装置です。
酒食だけではなく仲間とのコミュニケーションや異郷での情報交換など、物語に直結する導線も設置しやすそうですね。

食べもののシーンは情景・状況・心情等々多くの情報を込めることができる側面があるため、シチュエーションを明確に描くことで味覚のみに留まらないおもしろさを読者に印象付けることができるのではないでしょうか。

支援BISさんの『辺境の老騎士』では旅の途上で老騎士が頬張る食べものの野趣、帚木蓬生さんの『ヒトラーの防具』では異国で手作りの日本料理を振る舞うシーンなどシチュエーションの面白さを感じました。


辺境の老騎士 I


ヒトラーの防具(上) (新潮文庫)


ヒトラーの防具(下)(新潮文庫)

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“オノマトペ”を活用する

オノマトペとは擬音語・擬声語・擬態語のことですが、感覚に依拠する食べものの描写では特に便利に使われているのではないでしょうか。
ホカホカとかテラテラとかパリパリとかジュワジュワとか、これだけで想像力を掻き立てられるのはあらかじめ日本語としての共通認識があるおかげですね。

そんなオノマトペですので適度かつ適切に用いたいものですが、オリジナルの擬音を発明するというのも一つの手段です。
本業は作家さんではありませんが東京農業大学名誉教授の小泉武夫さんは、その著作の中で多様で独創的なオノマトペを使っています。
例えばぬる燗の純米酒を煽るときの「コピリンコ」や、納豆とたまごなどを混ぜる「ねれんねれん」、美味への期待で涎が湧いてくる「ピュルピュル」等々、実に面白い擬音が目白押しです。

オノマトペの難しいところはその語感から体験に対して共感を呼べるかどうかという点だと思いますが、一般的な既存の表現の一部をアレンジするなどの手法も有効でしょう。

使いすぎると文章のバランスに影響を与えるおそれもありますが、おいしそうな食べもの描写ではこうしたオノマトペの用い方が巧みなものも多いと感じています。


ぶっかけ飯の快感 (新潮文庫)

三條すずしろ・記

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