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伊緒さんのお嫁ご飯

第五十八椀 とれたて!「夏野菜カレー」。瑠依さんの大学と晃くんの故郷

 大阪出張が金曜にまたがったある週末、土日を利用して関西で伊緒さんと合流することにした。 古都・奈良にある、瑠依さんの勤める大学に行ってみようと思ったのだ。 瑠依さんは伊緒さんの従姉妹で、食文化史を専攻する研究者だ。 伊緒さんにとってはお姉さんのような人で、二人はすごく仲がいい。 激しく人見知りをすることから「借りてきたネコ」と呼ばれているけど、先日一緒にお好み焼きを食べてから、少しぼくにも心を開いてくれたと信じて………………~続きを読む~
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第五十九椀 雨の日の「コーヒーゼリー」。伊緒さんの選択、晃くんの決心

 飲み残しのコーヒーばかりが冷蔵庫にたまっていく。 先日、従姉妹が勤める奈良の大学に一緒に行って以来、夫はさらに忙しくなったようだ。 これまでも朝は早かったけど、さらにもう一本前の電車に乗るようになって、慌ただしく出勤していく。 朝食はお家でとらない(会社に行きたくなくなるから、と言っていた)ので、せめてコーヒーだけはドリップして飲んでもらえるようにしている。 たとえ残っても、夫がいればアイスコーヒーにして飲みきっ………………~続きを読む~
伊緒さんのお嫁ご飯

第六十椀 〆 さよなら、それぞれの道へ。最後の「おにぎり」

  がらんとした部屋に佇み、ここで過ごした時に思いをはせる。  決して長くはなかったけれど、濃密でしあわせな、愛おしい日々。  毎日のようにおいしいご飯をつくって、彼女が待っていてくれた場所だ。  ここには小さなテーブル、ここには小さな衣装ケース、そしてここには二人分しか入らない小さな食器棚。  たしかにずっとそこにあったはずの家具なのに、すべて運び出された後ではもう、記憶を辿るよすがすら薄れてゆく。  何かをやり………………~続きを読む~
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水果 ゆめの庭の「夏みかんシャーベット」。物語は続きます

 ようやく直しが終わった原稿の束を抱えて、2階の書斎から階下へと降りていった。 リビングから外を見やると、薄暗がりに慣れた目には世界が一瞬真っ白に感じられる。 やわらかな陽の差す庭にはたくさんの樹が植わっていて、ぼくたちは四季折々の花や実を楽しみにしていた。 サンダルをつっかけて庭に出ると、一本の樹ががさごそと揺れている。 「あ!見つかった!」  笑って木陰から出てきたのは伊緒さんだ。    その腕には、太陽をその………………~続きを読む~
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