伊緒さんのお嫁ご飯

第六十椀 〆 さよなら、それぞれの道へ。最後の「おにぎり」

  がらんとした部屋に佇み、ここで過ごした時に思いをはせる。  決して長くはなかったけれど、濃密でしあわせな、愛おしい日々。  毎日のようにおいしいご飯をつくって、彼女が待っていてくれた場所だ。  ここには小さなテーブル、ここには小さな衣装ケース、そしてここには二人分しか入らない小さな食器棚。  たしかにずっとそこにあったはずの家具なのに、すべて運び出された後ではもう、記憶を辿るよすがすら薄れてゆく。  何かをやり………………~続きを読む~
伊緒さんのお嫁ご飯

水果 ゆめの庭の「夏みかんシャーベット」。物語は続きます

 ようやく直しが終わった原稿の束を抱えて、2階の書斎から階下へと降りていった。 リビングから外を見やると、薄暗がりに慣れた目には世界が一瞬真っ白に感じられる。 やわらかな陽の差す庭にはたくさんの樹が植わっていて、ぼくたちは四季折々の花や実を楽しみにしていた。 サンダルをつっかけて庭に出ると、一本の樹ががさごそと揺れている。 「あ!見つかった!」  笑って木陰から出てきたのは伊緒さんだ。    その腕には、太陽をその………………~続きを読む~
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