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第3回 みさと文学賞佳作、『星読みの国』の設計解説

物書きばなし
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第3回 西の正倉院みさと文学賞で佳作を受賞

この度、宮崎県の美郷町が主催する「第3回 西の正倉院みさと文学賞」で佳作に選んでいただくことができました。

帯刀 古禄(たてわき ころく)名義の『星読みの国』という短編です。

美郷町には古代、戦乱を逃れた百済王がこの地に流れ着いたという伝承があり、そのことに因んだ風習や祭りが伝わっています。
また、正倉院御物と同様の古鏡が大量に伝世するなど、貴重な文化遺産の宝庫でもあります。
その縁から美郷町には正倉院を原寸で復元した博物館があり、この「西の正倉院」が文学賞の名の由来となっています。

賞に関する記事は以下をご覧ください。↓

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テーマは百済が伝えた「暦」

”西の正倉院、百済王など美郷町から連想される何か”を取り入れた1万2,000字以内の短編が募集条件だったため、私は「暦」をメインテーマとして選びました。

百済は日本に初めて公式な暦をもたらした国とされ、美郷町⇔百済⇔日本をつなぐ要素として申し分のない素材と考えたためです。

物語は、古代の美郷町を思わせる土地で、亡びた百済の暦作りの技を伝える少年・少女を主として展開します。

百済の末裔が暮らす郷で暦づくりの技を伝える「爺様」と、孤児だった「キジト」と「コサメ」。
子どもたちは暦法を学びながら、やがて失われた百済の暦「元嘉暦」の継承を託されます。

聡明なキジト、そして天体の動きから吉凶の兆しを感じる「星読み」の力を宿したコサメ。
二人は、爺様が語った「生死を司る星神」の伝説を胸に、ゆっくりと大人になっていきます。

自身には星読みの力がないことに焦るキジトが、最後に見た光景とは――。

これは、そんな物語です。

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時代設定

作中で明言はしていませんが、仮に奈良時代末期の美郷町(らしきどこか)を舞台として設定しました。

百済が滅亡したのは年表によると西暦660年、しかし百済王・禎嘉が宮崎に漂着したのは、美郷町の神門神社社伝によると天平勝宝8(756)年頃のこととされています。

詳細は不明ながら、一旦ヤマトへと亡命した百済王族の子孫が、何らかの理由で日向(宮崎)へとやってきたものとの説もあるようです。

社伝どおり禎嘉王が8世紀半ばに美郷町へとやってきたとして、奈良時代末期であれば一世代は過ぎたことになります。
王の漂着はキジトとコサメが生まれるずっと前であり、時代設定として破綻はないものと判断しました。

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キャラクター設定

爺様

暦づくりの技を伝える百済の末裔で、キジトとコサメの師にして育ての親。
亡びた百済の「元嘉暦」を組める、当代唯一の暦士でもあります。

イメージは神仙、あるいは謹厳な儒学者。
夜の闇を怖がる幼いキジトに、星空の明るさや星座の名前を教えました。

子どもたちには深い愛情をもって接する父性的な人物で、百済の伝統を守ることで精神的な歴史を絶やさないという信念があります。

キジト

爺様に育てられた男の子。
非常に聡明で、暦法の理論をよく理解しすぐにその仕組みを覚えました。

ただし、天体の動きから吉凶を知る「星読み」の能力は宿っていません。
妹のように一緒に育ったコサメに対して複雑な思いを抱きながらも、夢中で暦づくりの技を学びます。

名前の由来は、古代朝鮮語で王の意味ともされる「キシ」です。
辞書によっては、事務にかかわる渡来人に用いられた敬称ともされています。

このことと、奈良時代に多い男子の名である「~ト」を合わせ、「王たる男」の意味を込めて「キジト」と名付けました。

コサメ

爺様のもと、キジトとともに育った女の子。
暦法の理論を覚えるのは少し苦手ですが、天体の動きから吉凶を察知する「星読み」の能力に秀でています。
それは自他の運命を予知するにおよび、巫女のように里人から頼りにされるようになります。

自身の運命も理解しており、感情を押し殺してしまうところがあります。

名前の由来は、古代朝鮮語で聖地を意味するという「コソ」です。
日本には「コソ」「コサ」とつく地名や神社名があり、渡来系の人たちが集住した場所という説があります。
私の故郷にも「名古曽」「古佐田」などの地名があり、高校時代の歴史の授業でその説を聞いたことが忘れられませんでした。

したがって、奈良時代に多い女子の名である「~メ」を合わせ、「聖なる女」の意味を込めて「コサメ」と名付けました。

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出典は中国の『捜神記』

作中の重要な出典として、4世紀・東晋の干宝による『捜神記』があります。

「志怪小説集」というジャンルですが、中国古来の伝説を集めたもので、生死を司る星神のエピソードを参照しています。
暦づくりの技も古代中国のものが百済、ついで日本へともたらされたため、おそらくそういった物語も伝えられたのではないかと考えました。

『捜神記』はジャパンナレッジ版を参考文献としましたが、これらのお話をベースにした『千年狐』という漫画も大好きです(笑)

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「元嘉暦」の参考は明日香村出土の暦

暦にはその組み方によってさまざまな種類がありますが、奈良時代に使われていたのは「儀鳳暦(ぎほうれき)」というものでした。
百済で使われ、最初に日本にもたらされたのは「元嘉暦(げんかれき)」でしたが、これが生まれた中国では70年とは使われなかった幻の暦といえます。

その原本は中国にも伝わっていないとされ、長らく謎の暦法でしたが、奈良県の明日香村・石神遺跡から元嘉暦を記した木製品が出土しています。
現在知られるものとは異なる独特の暦注が施されるなど、貴重な史料となっています。

『星読みの国』では、この石神遺跡出土の元嘉暦を参考にしました。

こよみの学校 第69回 現存する日本最古の暦|日本の季節を楽しむ暮らし 暦生活
2003年2月27日、新聞紙上に「最古の暦」の文字が躍りました。
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主題は「継承」と「世代交代」のループ

『星読みの国』では、隠し設定として「ループ」というキーワードを想定しています。
暦に象徴される天体や自然が、人間の生業とは関係なく循環し続けるという時間軸を表現したかったのです。

技や知識、そして心といったものが幾世代も継承され、その長い時空そのものがひとつの生命のように思えるからです。

1万2,000文字以内という短い小説の中でそれを表すため、最初と最後にほとんど同じシーンを配しました。
最後は老いたキジトの視点ですが、最初は幼少のキジトとも、あるいはそれよりずっと以前の誰かとも解釈できるようになっています。

そのことによって、あらゆる思い出がひとつの神話に溶け込んで、ループするかのように次の世代に伝えられてゆくことへの願いを込めました。

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美郷町に伝わる風習を採り入れた

みさと文学賞では、美郷町の歴史や文化などから想起される何かを作品に織り込むことが応募条件となっています。
実に多くのモチーフがあるのですが、やはり百済王伝説やそれに因む祭り・風習は真っ先に思い浮かぶ題材でしょう。

奈良時代末という本作品の時代設定では、現行のお祭りをそのまま使うことはためらわれましたが、起源不明の架空の祭礼として「師走祭り」をモデルにしました。

そして、別れ際にお互いの顔に墨を塗るという「へぐろ塗り」の風習も採り入れています。
悲しい顔をみせず、笑顔で再会を約すという素敵な意味に感銘を受けたためです。

もし『星読みの国』を読んでくださることがあれば、ぜひ美郷町に伝わる歴史と文化に思いを馳せていただければと思います。

師走祭り – 美郷町公式観光サイト
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まとめ

美郷町のある宮崎県と、私が暮らす和歌山県とは実は大きなつながりがあります。

端的な例として、神武東遷の神話が思い浮かぶでしょう。
伝説では、日向を発した神武は長い旅の果て、紀州熊野の山を越えて大和へと至ったといいます。

そういった意味でも、私はこの文学賞との縁を感じずにはいられませんでした。

蛇足ながら、新婚旅行ではフェリーに乗って最初に上陸したのが宮崎県で、まっしぐらに「西都原古墳群」を目指したことをよく覚えています。

今般のコロナ禍の折、美郷町を訪問することはまだ実現していませんが、ぜひこの目で百済王が安息した地を見たいと願っています。

帯刀 古禄・記

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