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『伊緒さんのお嫁ご飯』のできるまで ① ―構想編―

物書きばなし
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『伊緒さんのお嫁ご飯』とは

いつも拙文にお目通しくださり、本当にありがとうございます。
このコラムでは、「三條すずしろ」としての代表作である『伊緒さんのお嫁ご飯』について、お話したいと思います。
この小説は「伊緒さん」という女性が、夫のためにいろいろとおいしいご飯を作ってくれるというとってもシンプルなお話です。
アルファポリスやエブリスタ、カクヨムなどの小説投稿サイトを発表の場にした初めての作品でもありました。
ありがたいことに、アルファポリス主催の「第1回 ライト文芸大賞」では「大賞候補作」として選んで頂き、 読者の方々に多くの温かいコメントを頂戴した思い出深い作品です。

そんな“お嫁ご飯”の構想・執筆・取材などなど、制作舞台裏のことを記してまいります。

「書きたいもの」から「読みたいもの」へ

三條が最初に書き上げた小説は、バリバリの歴史小説でした。
それも奈良時代というニッチな舞台で、かつ「隼人」と呼ばれる南九州の先住民族を主人公にした、マニアックな作品です。
それは自分自身が「書きたい」と思うこだわりを突き詰めた小説で、郁朋社主催の「第15回 歴史浪漫文学賞」では三次選考を通過することができました。

『吠声(はいせい)』と名付けたこの作品は、ご縁があって電子書籍としてリリースしていただくことができました。
以後わたしは、歴史小説を中心にWEB作家としての活動を始めました。
ですが、自分の思うように小説を書いて、誰かがそれを読んでくれることに感動する反面、「これでいいのか」という疑問にも苛まれるようになりました。

自分が書きたいものを書いた。
では、読者としての自分が「読みたいもの」はなんだろう。
それは小説のページをめくってくれる、見知らぬ誰かと同じ視点のはずではないか――。

そういう思いが、歴史以外のジャンルに挑戦する原動力となったのです。

料理がテーマの、初めての「ライト文芸」ジャンル

「読みたいもの」を考えたとき、真っ先に思い浮かんだのが「食べ物」に関する小説でした。
わたしはおいしそうな料理が出てくる物語やエッセイが大好きで、特に仕事で疲れているときなど、通勤電車の中でそんな作品の世界に入るのが何よりの癒しだったのです。
本屋さんに並ぶ作品も、「料理」をテーマにしたものがよく目につくように思います。
わたしと同じように、きっとそんな癒しの時間を求める人が多いのだと感じ、食を題材に小説を書きたいと考えました。

わたしは硬質で淡々とした文体が好きで、自身の初作は意図的に硬い雰囲気を目指して書き上げました。
でも、料理がテーマでなおかつ癒しになるような作品ならば、もっと思い切ってやわらかく親しみやすい文体にしようと思ったのです。
折しもライトノベルと一般文芸の中間的なスタイルである、「ライト文芸」というジャンルが認知されてきた時期でした。
これなら、無理なく取り組めそう。
そう思ったものでした。

食事ではなく、「食卓」を描きたかった

料理をテーマに、とはいうものの、すでに大昔から優れた作品が本屋さんを埋め尽くしています。
特に難しいとされる食べ物の描写も、文字だけで思わず生唾が湧いてくるようなすごいものは枚挙にいとまがありません。
でも、わたしは筆を尽くして美味を書きたかったのではなく、むしろ日常の何気ない食べ物にあらわれる、幸福な感じを表現したいと願っていました。
食事ではなく、「食卓」を描きたかったのです。

これらの願いをもとに、若い夫婦の小さな日々の食卓を切り取った『伊緒さんのお嫁ご飯』が構想されました。
高級な食材も、変わったメニューも、ほとんど出てきません。
でも、
「おうちでつくって、一緒にたべる」
物語の芯は、この一言に込めることができたと思います。

「夫婦」にした理由

お嫁ご飯、とあるように主人公はもちろん夫婦です。
お話的には、おそらく同棲のカップルとか、付き合い始めたばかりの恋人同士とかのほうが広がりをもたせやすかったでしょう。
でも、あえて夫婦にしたのは、食卓のシーンに集中することで愛情を描いてみたかったためです。
夫婦としてともに生活しているわけですので、改めて情愛を描写しませんでした。
男女の仲の良さ、というのは、普段の何気ない部分に色濃く表れるものと考えたからでした。
ですので、夫婦が主人公でありながら、お互いの身体に触れる描写は一部を除いて(額に手を当てて熱をはかるとか)、最後のシーンまでは徹底的に避けました。
ですが、かえってその設定が情の細やかさを伝えることに、一役かってくれたものと感じています。

「伊緒さん」の名の由来

主人公の女性の「伊緒(いお)」という名前は、初作の『吠声』でヒロインのために考案したもののひとつでした。
しかし吠声は奈良時代のお話ですので、さすがに時代背景にそぐわなくてストックしていたのでした。
「イオ」は木星の衛星のひとつで、漢字を当てるとすごく日本語っぽいなあ、と思っていたのです。
また、木星にとってはいわば「月」にあたる天体で、夜道を明るくやさしく照らしてくれるような
月のイメージを人物像に望みました。
漢字は雰囲気から選んだのですが、「~緒」という名前をとても女性らしく感じたのと、わたしが育った地域名から「伊」という字に馴染みがあったことも関係しています。

漢字の意味を無理に解釈すると、「伊」は神杖を持った聖職者を表す字で、「緒」は糸口、つまり物事の始まりのことだそうです。
おたまを携えておいしい料理をつくってくれる彼女の姿は、聖職者に見えなくもありません(笑)
また、初挑戦のジャンルを書くにあたって、まさしく端緒としてふさわしいように思えたものです。

また、二字で発音しやすく呼びやすく、それでいて少し珍しい感じの名前として、たいへん気に入っています。

~その②に続く~

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