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第三十六椀 こっくり甘辛「カレイの煮付け」。白身と卵で二度おいしい

もちろんお肉もお魚も好きなのだけど、さあ、どっちかひとつだけ選べ!と言われたら「お魚」と答えると思う。 お刺身よし、焼きよし煮付けよし、蒸そうが揚げようが、もうどう調理したっておいしい。 しかもものすごくたくさんの種類があって、ぜんぶ味が違うのも神秘的だ。 パリパリに揚げて頭からまるごと食べる小魚もおいしいし、とろりと脂の乗った大型魚のお刺身もこたえられない。 家族で毎日のように食卓を囲んだ、というわけではなかったけ………………~続きを読む~
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第三十七椀 牛丼?カツ丼?玉子丼?どんぶりの王者と伊緒さんの苦悩

わたしはこれまで、夫である人に対して意図的につくってこなかった料理があることを告白します。 けれど彼はその料理が大好きで、実はわたしにとっても特別な思い入れのあるメニューでもありました。 それでもなお、わたしは頑なに家庭でそれをつくることを拒みつづけてきたのです。 なぜか、と問われればわたしは口ごもってしまうかもしれません。 いくつかのそれらしい言い訳はできるでしょうが、その実態はかなりの面でわたし自身の情緒的な問題………………~続きを読む~
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第三十八椀 たかが、されどの「ゆでたまご」。伊緒さんとイースターの思い出

伊緒さんはたまご好きだ。 オムレツとか茶碗蒸しとか、さまざまな卵料理ももちろん得意なのだけど、「たまご」そのものが好きなのだという。 かわいらしい楕円形の理由は、巣から転げ落ちないため。 その中身は世界で一番大きな単細胞。 そういったところが、いろんな方面から伊緒さんの琴線に触れているみたいだ。 それにたまごについては、彼女にとってたいへん思い出深いエピソードがあるという。 伊緒さんがこどもの頃、とても楽しみにしてい………………~続きを読む~
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第三十九椀 土曜のお昼の「ソース焼きそば」。かつて土曜は半ドンでした

"半ドン"という言葉が通じるのは、もしかしてぼくたちの世代が最後なのかもしれない―――。 そう思ったのは会社に数年振りに新卒の人たちが入社してきて、研修の一部をぼくが担当したことに由来する。 「まあ、比較的年齢が近いだろう」くらいの理由で白羽の矢が立ったのだけど、どうしてなかなか、世代の違いを感じざるを得ない。 イチバンの要素はやっぱり言葉だ。 彼ら彼女らの言っていることが分からないのではなくて、こちらが使う言葉がす………………~続きを読む~
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第四十椀 デミ香る「ハヤシライス」。洋食界の裏ボスはこれできまり

世の中にはよく似てるけど実はぜんぜん違う、というものが結構あるようだ。 たとえば、「チーター」と「ヒョウ」「りんご」と「なし」「ゼロ戦」と「隼」 などがパッと思い付いた。 最後のはもちろん、歴史的にも有名な航空機なのだけど伊緒さんいわく、 「ゼロは海軍、隼は陸軍の戦闘機よ。よく似てるうえにエンジンも同じだったそうだから、混同してしまいそうね。そもそも両者の設計思想の違いは(以下略)」 だ、そうだ。 ゼロ戦のことをさら………………~続きを読む~
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箸休め おみやげに「苺のタルト」。伊緒さんが喜ぶとぼくも喜びます

ここに酔っぱらって帰宅するサラリーマンがいたとします。 おそらく接待か何かだったのでしょう。 一応はお仕事の範疇であり、気は遣ったのでしょうが悪いお酒ではなかったようです。 その証拠に、千鳥足ながらも実に機嫌よく、歌なんか口ずさんじゃったりしています。 歳の頃は40代後半、お家にはあまり会話もなくなってしまった奥さんと、難しい年頃の娘さんがいます。 しかし彼の足取りはあくまで軽いのです。 誠心誠意の接待が功を奏して、………………~続きを読む~
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第四十一椀 脇役じゃないよ「香の物」。真のおかずにしてご飯の盟友です

小さな小さなお皿に、ちんまりと盛られて出てくるお漬物。 定食のお膳にも必ず付いているけど、ある種のお料理とふさわしいペアを組んで登場することもしばしばだ。 お蕎麦には野沢菜漬け、うなぎには奈良漬け、海苔巻きには生姜の甘酢漬けなんかがぴったりだし、カレーにらっきょうや福神漬けも範疇に入るだろう。 そんなお漬物のことを、「香の物」というお洒落な名前で呼ぶことはよく知られている。 「お新香」とか「おこうこ」なんかもこれに由………………~続きを読む~
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第四十二椀 揚がれ!「とんかつ」。おかずの王よ。この火加減は勝負です

さあ、揚げるわよ。 ようございますね。 ようございますね。 では。 入ります。 長い黒髪を後ろできりりと引き結び、真っ白な割烹着に身を包んだ伊緒さんが油鍋と対峙している。 祓えに臨む神職のようにも、はたまた立合いに赴く剣士のようにも見えるその佇まい。 おいそれと声をかけるのもはばかられるほど、真剣そのものの気魄に満ちている。 この状態の伊緒さんを、ぼくは「真の本当の本気」と勝手に呼んでいる。 難しくて手間のかかるお料………………~続きを読む~
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第四十三椀 うれしはずかし愛妻弁当。人生の先輩が語る結婚生活の極意とは?

会社では外回りに出ることも多く、お昼ごはんはほとんど外で食べている。 とは言っても、いつも決まった時間に食べられるとは限らないし、節約のためにもついつい簡単に済ませてしまうことが多い。 ランチは働く者にとって大きな楽しみであり、お昼時ともなればどのお店も勤め人でいっぱいになる。 定食や丼もののチェーン店からファーストフード店はもちろん、夜がメインの料理屋さんでも日替わりランチなんかを用意していて、安くておいしいものが………………~続きを読む~
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第四十四椀 春らんまんの「たけのこご飯」。伊緒さんの故郷に筍はなし?

たけのこが好きだ。 これはぼくが子どもの頃からの一貫した好物で、どんな状態のものを見てもノスタルジーを感じてしまう。 八百屋さんにごろん、と陳列されているもの。 竹やぶからにょっきり野放図に生えてきたもの。 ラーメンにメンマの状態でちょこんと乗っかっているもの。 どれもこれも実にステキだ。 まずもって形がかわいい。 幾重にも着物を羽織ったような不思議な皮の感じがおもしろく、藪でぴょこんと顔を出しているのを見つけると、………………~続きを読む~
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第四十五椀 最強の甘味「クリームあんみつ」。これはつまりフルアーマーです

和菓子には欠かすことのできない「あんこ」。 ご存じのとおり、炊いたあずきなどをお砂糖や水飴と練り合わせたものだ。 これがなきゃできないお菓子がたくさんあるという、とっても重要な加工品で、ぼくも伊緒さんも大好きな甘みだ。 海外の人に 「アンコってなんだい」 と聞かれたとき、とっさに  「豆のジャムかなあ」 と回答したけどだいたい合っていると思う。 あずきだけではなくて、赤インゲンや白インゲン、エンドウ豆なんかもよく使わ………………~続きを読む~
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箸休め 「2人で焼き肉行くと本物の恋人」。関西の古い言い伝えです

わたしが内地(本州)で暮らすようになって悲しかったこと。 "ザンギ"が通じなかったこと。 カップ焼きそばにスープがついていないこと。 スーパーにジンギスカンが売っていないこと。   ほかにも細かいことはいろいろとありましたけど、この3点については本当に悲しく思ったものでした。 ザンギについては外ではなるべく"からあげ"というようにして、ひとりのときにザンギザンギと唱えていました。 カップ焼きそばのスープなしは、別のス………………~続きを読む~
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第四十六椀 ちょっと太った!「酢の物」導入で緊急対策。でも運動も大事です

ある日緊急招集がかけられ、ぼくと伊緒さんの全人格が一堂に会するという、非常事態が発生した。「みなさん、よくお集まりくださいました。これより秋山晃平・伊緒両名による全人格会議を開催します。本日の議題は、こちらです」 議長役の伊緒Aさんが合図をすると、ばばーん、と前方のスクリーンにふたつのグラフが映し出された。 片方はぼくの、もう片方は伊緒さんに関わる数値が記されている。 なにかというと、それは「体重」。 ぼくたちが結婚………………~続きを読む~
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第四十七椀 皮も手づくり「もっちりギョーザ」。お部屋に初訪問って緊迫です

初めて伊緒さんの部屋にお邪魔したとき、本当に緊張したのをよく覚えている。 その時はまだ正式にお付き合いしているわけではなくて、本とかマンガとかの貸し借りを通じてだいぶ仲良くなってきたかなあ、という程度の関係だった。 なので"伊緒さん"なんてなれなれしく呼べるはずもなく、旧姓である「上月(こうづき)さん」と呼んでいた。 珍しい苗字だし、字面がなんかかっこいいので彼女の雰囲気によく似合っていると思ったものだった。 彼女は………………~続きを読む~
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第四十八椀 ほっとする味、「厚揚げの炊いたん」。関西弁の不思議に迫ります

「ねえねえ晃くん!関西では煮物のこと"タイタン"って呼ぶってほんとう?」 伊緒さんが目をキラキラさせて質問してくる。 じつに曇りなきまなこだ。 だが、曇りなきがゆえにこれは少々面倒な問題でもある。 伊緒さんが想像している"タイタン"というのはつまり、土星の衛星だったり"チタン"の語源だったりする古代ギリシアの神々のことだろう。 タイタン、つまりティターンはオリュンポス十二神に先立つ古代の巨神一族であり、その末子クロノ………………~続きを読む~
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第四十九椀 お疲れに「レバニラ炒め」。心身のストレスもすっ飛ばします

疲れた。 あんまり疲れた疲れたと口に出すのもよくないのだけど、今日はほんとうに疲れてしまった。 会社ではこってりと神経をすり減らし、ようやく仕事を終えて家路につくと、そんな時に限って電車はいつにも増して混んでいる。 超満員、乗車率120%、立錐の余地もない、さまざまな表現があるけれど、実際に経験しないとわからないだろう。 人間同士が直方体の箱にぎゅうぎゅう詰めになり、四方八方から圧迫されて、とんでもない格好のままじっ………………~続きを読む~
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第五十椀 囲もう鉄板!「お好み焼き」。伊緒さんの従姉妹、瑠依さん登場

お家に帰ると伊緒さんが2人いた。 「おかえりなさい」 と同時に声をかけられて、少々たじろいでしまう。 白いワンピース姿でニコニコしているのは、いつも見なれたぼくのお嫁さんである伊緒さんだ。 黒に見えるような濃紺のチュニックをまとった方の伊緒さんは、怜悧な表情で「ごぶさたです。お邪魔しています」と言ってぺこりとおじぎをした。 一見そっくりな2人だけど、黒伊緒さんは縁なし眼鏡の奥に切れ長の目、そしてにこりともしないクール………………~続きを読む~
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箸休め ところてんは何の味?酢醤油vs黒蜜、文化の違いが面白いのです

北国も北国、日本列島のとっても北の方で育ったわたしは、縁あって関西育ちの男性と結婚しました。 お互いに異なる文化圏で育ったわたしたちの結婚生活では、主に食文化の面でいろいろとおもしろい食い違いが生じたのです。 まず、味付けの濃い・薄い、という問題がありました。 結婚当初、彼にとってわたしの味付けは濃すぎるようで、でも希望通りにすると「味がしねえ」と思ったものでした。 ところが慣れというのはたいしたもので、いまやわたし………………~続きを読む~
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第五十一椀 「たまご焼きのサンドイッチ」。一緒に博物館へ行きましょう

歴史ライターのお仕事をしている伊緒さんが、もともとどんな時代やモノに興味があったのか、これまで考えてみたこともなかった。 ぼくももちろん歴史は好きなのだけど、それは坂本龍馬が好き、とか織田信長が好き、といったくらいの淡くささやかなものだ。 小説の設定として幕末史に焦点を当てたことがあるけれど、それはあくまでも取材であって研究ではない。 でも、伊緒さんがしていることは研究だったということにようやく気が付いた。 先日遊び………………~続きを読む~
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第五十二椀 「揚げナスの田楽」。伊緒さんの研究は”精進料理”がキーワード

まったく思いもかけず、彼から博物館に考古遺物の特別展を見に行こうとのお誘いを受けたのは、わたしにとってものすごくうれしいことでした。 考古学は専門ではありませんでしたが、学生のとき最初に習った概論を思い出し、夢中になってしゃべりながら彼と観覧したものです。 それはわたしにとって、古代の人がつくりだした数々のモノが放つ存在感に畏敬の念を新たにし、歴史を学び始めた頃の新鮮な感動を呼び起こしてくれる体験になりました。 また………………~続きを読む~
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