小説の書き方には4つの「作家タイプ」がある? 自身にあった創作スタイル模索のヒントをご紹介!
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第二十九椀 春の香りの「ふきのとう」。フキの葉の下には妖精がいます
「ああ、ありました!芽を出してる。かわいい!」 「こっちにも!よく見るとけっこうあるのね」 ふたりして大騒ぎしながら探しているのは、春の山菜の中でも一番はやく顔を出す「ふきのとう」だ。 淡くやわらかな黄緑色をして、地面からぴょこっと出てきた様子は芽キャベツが落っこちているかのようにも見える。 指先で摘み取った瞬間、春の息吹を凝縮したような強い香気が立ち上った。 この香りこそが、山菜の醍醐味だ。 前に伊緒さんに大根………………~続きを読む~
第三十椀 花冷えの「スープカレー」。カレーとは違うのだよ、カレーとは
日本はせまい、なんて誰が言い出したのかは知らないけれど、そんなの嘘だと思う。 北から南まで実にさまざまな民俗があって、関ヶ原を挟んでいまだに切り餅と丸餅がせめぎ合い、うどんのダシが濃いとか薄いとかで騒いだりしている。 すごくおもしろい。 そしてさらにおもしろいことは、異なる土地で育ったふたりが夫婦になったときに起こるのだ。 特に食文化の違いは決定的で、これをどうお互いに理解して歩み寄るか、というのが大きなテーマに………………~続きを読む~
箸休め 伊緒さんと居酒屋メニュー。たまにはお外で飲みましょう
伊緒さんと居酒屋にきている。 ふたりで飲みに出掛ける、ということは滅多にないのでぼくは少々緊張している。 「曲がりなりにも夫婦じゃろうがい、寝ぼけたこと言うちょったらシゴウしゃげたるぞ」 と、急に広島方面のおじさんが出てきて怒られるという幻覚にも悩まされる。 そうは言っても仕方ないではないか。 そもそもお酒に弱いぼくは、どっかのお店で飲むという習慣がない。 大人の階段を踏み外してはこじらせてきたぼくにとっては、居………………~続きを読む~
第三十一椀 半額刺身で「バラちらし」。タイムセールの奇跡です
"半額"と書かれたシールがまばゆい光を放ち、ぼくたちはその神威に立ちすくんだ。 時刻は午後7時、すなわちひときゅうまるまる。 場所は行きつけのスーパー、鮮魚売り場。 パックになったいくつかのお刺身に、神の恩寵とも称される半額シールが燦然と輝いている。 天球には雷光がほとばしり、怒気をはらんだ疾風が容赦なく吹きすさんだ。 時あたかも慶応二年、近代への夜明け前のことやったがじゃ……。 「晃くん、しっかりして」 伊緒さ………………~続きを読む~
第三十二椀 昔懐かし「ナポリタン」。時のはざまに迷い込みます
喫茶店とかカフェとかを「サテン」と呼ぶ人がめっきり少なくなったと、有識者たちが憂えているらしい。 ぼくもお得意先の方との打ち合わせで、 「どっか近くのサテンにでも行こうや」 と言われて途方に暮れたことがある。 サテンが「茶店」だと気付いたときにはすでに遅く、なんとなくラテン風の一杯飲み屋で見積もりをとったのはいい思い出だ。 それ以来、一定以上の世代のお客さんと外で打ち合わせをする際には、 「どうでしょう、近くのサ………………~続きを読む~
第三十三椀 ほくほく「ミートコロッケ」。校則で禁止でも買い食いに最適です
ぼくは中学から高校の途中まで剣道部に所属していた。 運動量が多く、激しく消耗するので部活の直後は水やスポーツドリンクしか受け付けず、夏場なんかは本当に死ぬかと思った。 両親が亡くなって部活はやめてしまったけれど、剣道そのものは楽しかった思い出ばかりだ。 運動後にちゃんと水分を補給しておくと、今度は帰り道の途中でものすごくおなかがすいてくる。 「おなかとせなかがぺったんこ」という格言通り、もう狂おしくカロリーを欲し………………~続きを読む~
第三十四椀 皮がパリパリ「チキンステーキ」。”小悪魔風”がヒケツです
男の子もお年頃を迎えると、いっちょまえに女の子の好みなんかがおぼろげに芽生えてきちゃったりして、たいへんなことになる。 気になる女の子についつい意地悪してしまう、という男の子もいるかと思うけど、言うまでもなく逆効果だ。 そういうことに気付くのは、迂闊にもだいぶんと大人になってからという場合も多いようで、意中の女性に対するアプローチというのはなかなか悩ましい問題なのだ。 ぼくの友人に、とにかく女性はほめるべきだとい………………~続きを読む~
第三十五椀 ココロふるえる「オムライス」。こども味vs大人味の共演です
伊緒さんはよく、 「晩ごはんはなにたべたいー?」 と聞いてくれる。 "カレー"とか"焼き魚"とかの具体的な料理名で希望することもあるけれど、実際には"何かこう、身体があったまるような"とか"さっぱりしつつもがっつりいけるような"などの曖昧なイメージを伝えてしまうことが多い。 それでも伊緒さんは、 「ようし、おっけい!」 と腕まくりをして、ショウガを隠し味にした豚汁や、たっぷりのおろしポン酢を添えたトンカツなどで………………~続きを読む~
箸休め フルーツパフェと男と女。食べたくても恥じらったりもするのです
伊緒さんは甘いものが大好きだ。 和菓子も洋菓子も喜んで食べるけれど、クリーム系のお菓子が好みのようだ。 どちらかというと男性に比べて、女性に甘党が多いように感じるのは、多分気のせいではないと思う。 最近でこそ「スイーツ男子」なる定義が浸透して、甘党の男性が大手を振るってお菓子を食べたりしているけれど、長らく「男が甘党とは恥」みたいな風潮がたしかにあった。 江戸時代には「いもたこなんきん」などと言って、ふんわり甘ー………………~続きを読む~
第三十六椀 こっくり甘辛「カレイの煮付け」。白身と卵で二度おいしい
もちろんお肉もお魚も好きなのだけど、さあ、どっちかひとつだけ選べ!と言われたら「お魚」と答えると思う。 お刺身よし、焼きよし煮付けよし、蒸そうが揚げようが、もうどう調理したっておいしい。 しかもものすごくたくさんの種類があって、ぜんぶ味が違うのも神秘的だ。 パリパリに揚げて頭からまるごと食べる小魚もおいしいし、とろりと脂の乗った大型魚のお刺身もこたえられない。 家族で毎日のように食卓を囲んだ、というわけではなかっ………………~続きを読む~
第三十七椀 牛丼?カツ丼?玉子丼?どんぶりの王者と伊緒さんの苦悩
わたしはこれまで、夫である人に対して意図的につくってこなかった料理があることを告白します。 けれど彼はその料理が大好きで、実はわたしにとっても特別な思い入れのあるメニューでもありました。 それでもなお、わたしは頑なに家庭でそれをつくることを拒みつづけてきたのです。 なぜか、と問われればわたしは口ごもってしまうかもしれません。 いくつかのそれらしい言い訳はできるでしょうが、その実態はかなりの面でわたし自身の情緒的な………………~続きを読む~
第三十八椀 たかが、されどの「ゆでたまご」。伊緒さんとイースターの思い出
伊緒さんはたまご好きだ。 オムレツとか茶碗蒸しとか、さまざまな卵料理ももちろん得意なのだけど、「たまご」そのものが好きなのだという。 かわいらしい楕円形の理由は、巣から転げ落ちないため。 その中身は世界で一番大きな単細胞。 そういったところが、いろんな方面から伊緒さんの琴線に触れているみたいだ。 それにたまごについては、彼女にとってたいへん思い出深いエピソードがあるという。 伊緒さんがこどもの頃、とても楽しみにし………………~続きを読む~
第三十九椀 土曜のお昼の「ソース焼きそば」。かつて土曜は半ドンでした
"半ドン"という言葉が通じるのは、もしかしてぼくたちの世代が最後なのかもしれない―――。 そう思ったのは会社に数年振りに新卒の人たちが入社してきて、研修の一部をぼくが担当したことに由来する。 「まあ、比較的年齢が近いだろう」くらいの理由で白羽の矢が立ったのだけど、どうしてなかなか、世代の違いを感じざるを得ない。 イチバンの要素はやっぱり言葉だ。 彼ら彼女らの言っていることが分からないのではなくて、こちらが使う言葉………………~続きを読む~
第四十椀 デミ香る「ハヤシライス」。洋食界の裏ボスはこれできまり
世の中にはよく似てるけど実はぜんぜん違う、というものが結構あるようだ。 たとえば、
「チーター」と「ヒョウ」「りんご」と「なし」「ゼロ戦」と「隼」
などがパッと思い付いた。 最後のはもちろん、歴史的にも有名な航空機なのだけど伊緒さんいわく、 「ゼロは海軍、隼は陸軍の戦闘機よ。よく似てるうえにエンジンも同じだったそうだから、混同してしまいそうね。そもそも両者の設計思想の違いは(以下略)」 だ、そうだ。………………~続きを読む~
箸休め おみやげに「苺のタルト」。伊緒さんが喜ぶとぼくも喜びます
ここに酔っぱらって帰宅するサラリーマンがいたとします。 おそらく接待か何かだったのでしょう。 一応はお仕事の範疇であり、気は遣ったのでしょうが悪いお酒ではなかったようです。 その証拠に、千鳥足ながらも実に機嫌よく、歌なんか口ずさんじゃったりしています。 歳の頃は40代後半、お家にはあまり会話もなくなってしまった奥さんと、難しい年頃の娘さんがいます。 しかし彼の足取りはあくまで軽いのです。 誠心誠意の接待が功を奏し………………~続きを読む~
第四十一椀 脇役じゃないよ「香の物」。真のおかずにしてご飯の盟友です
小さな小さなお皿に、ちんまりと盛られて出てくるお漬物。 定食のお膳にも必ず付いているけど、ある種のお料理とふさわしいペアを組んで登場することもしばしばだ。 お蕎麦には野沢菜漬け、うなぎには奈良漬け、海苔巻きには生姜の甘酢漬けなんかがぴったりだし、カレーにらっきょうや福神漬けも範疇に入るだろう。 そんなお漬物のことを、「香の物」というお洒落な名前で呼ぶことはよく知られている。 「お新香」とか「おこうこ」なんかもこれ………………~続きを読む~
第四十二椀 揚がれ!「とんかつ」。おかずの王よ。この火加減は勝負です
さあ、揚げるわよ。
ようございますね。
ようございますね。
では。
入ります。
長い黒髪を後ろできりりと引き結び、真っ白な割烹着に身を包んだ伊緒さんが油鍋と対峙している。 祓えに臨む神職のようにも、はたまた立合いに赴く剣士のようにも見えるその佇まい。 おいそれと声をかけるのもはばかられるほど、真剣そのものの気魄に満ちている。 この状態の伊緒さんを、ぼくは「真の本当の本気」と………………~続きを読む~
第四十三椀 うれしはずかし愛妻弁当。人生の先輩が語る結婚生活の極意とは?
会社では外回りに出ることも多く、お昼ごはんはほとんど外で食べている。 とは言っても、いつも決まった時間に食べられるとは限らないし、節約のためにもついつい簡単に済ませてしまうことが多い。 ランチは働く者にとって大きな楽しみであり、お昼時ともなればどのお店も勤め人でいっぱいになる。 定食や丼もののチェーン店からファーストフード店はもちろん、夜がメインの料理屋さんでも日替わりランチなんかを用意していて、安くておいしいも………………~続きを読む~
第四十四椀 春らんまんの「たけのこご飯」。伊緒さんの故郷に筍はなし?
たけのこが好きだ。 これはぼくが子どもの頃からの一貫した好物で、どんな状態のものを見てもノスタルジーを感じてしまう。 八百屋さんにごろん、と陳列されているもの。 竹やぶからにょっきり野放図に生えてきたもの。 ラーメンにメンマの状態でちょこんと乗っかっているもの。 どれもこれも実にステキだ。 まずもって形がかわいい。 幾重にも着物を羽織ったような不思議な皮の感じがおもしろく、藪でぴょこんと顔を出しているのを見つける………………~続きを読む~
第四十五椀 最強の甘味「クリームあんみつ」。これはつまりフルアーマーです
和菓子には欠かすことのできない「あんこ」。 ご存じのとおり、炊いたあずきなどをお砂糖や水飴と練り合わせたものだ。 これがなきゃできないお菓子がたくさんあるという、とっても重要な加工品で、ぼくも伊緒さんも大好きな甘みだ。 海外の人に 「アンコってなんだい」 と聞かれたとき、とっさに 「豆のジャムかなあ」 と回答したけどだいたい合っていると思う。 あずきだけではなくて、赤インゲンや白インゲン、エンドウ豆なんかもよく………………~続きを読む~