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「時」にフォーカスした校閲法の一例 ~モノ書きさんのための校正・校閲術~

物書きばなし
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校閲の重点ポイントのひとつ、「時」

記事作成でも創作でも、その文章の不備をチェックする校閲では「時」の把握がひとつの重要なポイントとなります。

時系列はもちろんですが、ここでは文中での「時点」を捉えることで、記述の誤謬や全体の齟齬がないかをチェックする方法を例示します。

あくまでもケースバイケースではありますが、考え方のパターンとしてご紹介します。

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小説での例

以下は時代小説の一節をイメージして書いた例文です。

まずはこちらを読んでみてください。

文章・帯刀古禄

いかにもありそうなシチュエーションで、なんということなく読み流せるような雰囲気ですね。

しかし、ここには重大な間違いがいくつも含まれています。

「時」の捉え方から、以下にそれを探る方法をみていきましょう。

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文中から拾う「時」の情報

まずは、文中から直接「時」を示している言葉をピックアップしてみましょう。

以下の画像に赤で線を引いた部分が該当します。

・新月
・明暦(間もなく五年)
・子の刻
・真冬

以上のことから、物語の舞台はもうすぐ明暦5年を迎える冬ということは12月。江戸時代は新月の日が月初めとなるため、明暦4年12月1日の夜(子の刻:23時~1時頃)であると考えられます。

これで、上記の文章での「時点」が確定しました。

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隠れた「時」の情報を探す

文章中には、さらに「時」を表すヒントとなる言葉が隠れています。

それが以下に赤で線を引いた部分です。

・木戸
・千代田の城の天守

木戸とは江戸・京都・大坂(阪)などの町の警備のために設けられたゲートです。
千代田の城とは江戸城のことで、これら施設や建造物は設置された時代や人の出入り(営業時間)などを探るヒントとなります。

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一連の情報から記述の齟齬を見出す

さて、それでは上記の情報をまとめて精査していきましょう。

まず取り掛かるのは、「明暦」とはっきり書かれた元号です。
このように具体的な時点を表す言葉は、確実に調べましょう。

明暦を検索してみると、承応4年(グレゴリオ暦の1655年)4月13日(旧暦)の改元、1658年7月23日(旧暦)に万治へと改められています。
つまり、この元号は明暦4年の7月23日までしか続いていないということがわかります。

しかし文中では「明暦も間もなく五年に」とあり、その他の記述から明暦4年12月と考えられることから、存在しない時間軸ということになります。

さらにみていきましょう。

忠兵衛が木戸を通ったのは「子の刻」、つまり午後11時~午前1時頃のこととなります。
しかし当時の木戸にはいわば警備員がいて、治安維持のため午後10時頃にはこれを封鎖する決まりになっていました。
その時刻を過ぎると対面で人物を確認し、脇の小さい出入口から通行させるのが普通です。

したがって、忠兵衛が子の刻にそっと木戸を開けて通るという描写はあり得ないことになります。

もうひとつ、「千代田の城の天守」とありますが、実は江戸城天守閣は3回焼失しており、最後のものは明暦3(1657)年1月、「明暦の大火」で失われて以来再建されていません。

上記の物語ではそもそも存在しない年代の元号ですが、西暦に換算したとしても当時には千代田の城の天守が見えることはありませんでした。

このように、いくつかのヒントから「時点」を可能な限り割り出すことで、記述の誤りをあぶり出すことが可能となります。

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決定的な「月」の誤謬

最後に、のっけから登場した言葉と文中の描写が決定的にかみ合っていない部分をみてみましょう。

以下、「月」に関する記述です。

冒頭で「新月」とあり、その後に月出の様子や月光についての描写があります。

しかし結論からいうと、「新月」は月齢ゼロで光のない真っ暗な状態を指しています。
したがって、この後に月の光を描くというのは大きな誤謬となります。

また、天守にかかった真冬の月が「低い」としていますが、夏季に比べると冬の月の位置は高くなります。
この点は二重に間違っており、こうなると冒頭の「美しい」は「夜」に対してかけたのかどうかという表現の是非にも議論が必要となりそうです。

これらを指摘するのも、校閲の役目だといえるでしょう。

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個別の事実関係を丹念に調べること

いかがだったでしょうか。

上記は校閲の技術のうち、「時」あるいは「時点」にフォーカスしたチェックの一例です。

はっきりした語句は調査し、それ以外のヒントから事実関係を確認していくのが基本的な作業となります。

先入観で読み飛ばしてしまい誤りに気付かないということはよくあるため、できる限り自身のアンテナを広げて丁寧に言葉にあたることが大切ですね。

ご参考になれば幸いです!

帯刀 古禄・記

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