刀身が鞘から簡単に抜けないのはなぜ? 刀を鞘に固定する小さな部品、“鎺(はばき)”を解説!
小説
【紀伊 零神宮のあやかし文化財レポート】幕間 あかり先生の歴史講座 〜陵山古墳・南紀重國のこと〜
はい。じゃあみなさん、教科書は閉じてくださいね!
今日は和歌山県橋本市の歴史に関わることを、2つ解説してみましょう。
まず1つめは「陵山みささぎやま古墳」。そう、庚申さんの使いのお猿さんと、たくさんの鬼たちが戦ったあの場所ですね。
円墳としては和歌山県下最大とされ、近畿地方でも出現期の横穴式石室をもつ、とーってもすごい遺跡です。
市の公式見解では5世紀末~6世紀はじめ頃の築造としていますけど………………~続きを読む~
【紀伊 零神宮のあやかし文化財レポート】第3章 血縄の主の大鯰と、裏隅田一族の大宴会
cafe暦と二人の童子
和歌山に赴任してきた新米教師のわたしが住んでいるのは、県の最北東端あたりの町だ。
大阪府と奈良県に境を接するところで、橋本という古い町の南側、高野山の麓に開かれた小さな住宅地「伊都見台いとみだい」。この和歌山県北東地域の古名、「伊都郡」に因んだ名前だそうだ。
その山手側、ちょっと小高くなったところにゼロ神宮――、もとい「瀬乃神宮」が鎮座している。土地の子どもたちが瀬乃をゼロ………………~続きを読む~
【紀伊 零神宮のあやかし文化財レポート】幕間 あやかし文化財レポート・その2
「りんごをむいてあげましょう」
そう言ってわたしは、わりといそいそと支度を始めた。この東堂医院は川のほとりにあり、病室からの眺めはとてもいい。河川敷はすでに葉桜となっているけど、やわらかな緑がなんとも心をなごませてくれる。
院長の東堂慈庵先生は、わたしが陵山古墳で鬼に襲われた後、瀬乃神宮で手当をしてくれたお爺ちゃんだ。
なんでも、「ご用達」なのだそうだ。
「こういうシーンって、マンガででった………………~続きを読む~
【紀伊 零神宮のあやかし文化財レポート】第2章 影打・南紀重國の刀と由良さんの秘密
刀とあやかし文化財パトロール
本物の日本刀を手入れする様子を見るなんて、もちろん初めてのことだ。
刀そのものは、博物館の展示ケース越しには何度も目にしたことがある。けれど遮るものもなく眼前にあるそれは、工芸品というよりむしろ命を宿した何かのようだった。
緋袴の装束姿の由良さんが、端座して口に懐紙をくわえ、刀身全体に打ち粉を打っている。打ち粉とは、時代劇なんかで侍が刀をポンポンと叩いているあのぼんぼ………………~続きを読む~
【紀伊 零神宮のあやかし文化財レポート】幕間 あやかし文化財レポート・その1
ピークを越えつつある桜が、風に吹かれて盛大な花吹雪を舞い上げた。
昼間の瀬乃神宮は夜とは打って変わって穏やかで、「bar 暦」もいまは「cafe 暦」の看板を出している。
先日と同じカウンターチェアに腰掛けたわたしの目の前で、由良さんがコーヒーをドリップしてくれている。芳しくふくよかな香りは、花散る午後にぴったりな気がする。
あの悪夢のような夜の出来事は、正直いってとても現実とは思えない。けれどわ………………~続きを読む~
【紀伊 零神宮のあやかし文化財レポート】第1章 陵山古墳と蛇行剣の王
零神宮と麗人の酒家
夜の神社に来るのは初めてかもしれない。
4月とはいえ空気はしっとりと肌寒く、短い参道沿いの桜は故郷の雪と見紛う白さだ。
和歌山、といえば南国のイメージが強かったけど、山間のこの街は意外と気温が低い。
石灯籠には本物の蝋燭が点され、灯芯がチヂッと揺らめくたび周囲の闇が形を変える。
「神さんに挨拶だけ、しといたしかええわ」
ここを教えてくれた先輩先生のアドバイスに………………~続きを読む~
【紀伊 零神宮のあやかし文化財レポート】プロローグ
~境界をくぐるとき~
夕暮れ時の橋を渡るときとか、列車で長いトンネルに入るときとか。
きんっ、と耳の奥に鍵をかけられたような音がして、少しの頭痛とともにふわっと身体が浮き上がるような感覚に襲われたことはないだろうか。
なんだか自分が自分ではないような、それまでいた時空からぽんっと放り出されて漂うかのような、不思議な感じ。
わたしは、こどもの頃からずっとそうだった。
橋を渡りきったりトン………………~続きを読む~
パンと龍 ~江川英龍の幕末麺麭レシピ~
「かてェな」
その煎餅のようなもののあまりの固さに顔をしかめたのは、むしろ川原石でも平気で嚙み砕きそうな面構えの偉丈夫だ。太い首の筋が浮き彫りになり、戯言ではなく文字通り歯が立たない食い物であることがうかがえる。
「噛めませぬか」
その様子を注視していた向かいの男がぎょろりと大きな眼を巡らせ、言い放つ。
「丹田に気を下ろして噛まれませい。兜を断ち割る気構えにて」
兜を割るつもりで噛まね………………~続きを読む~
【WEB小説】『柚子とさば骨』
さっきから幾度となく魚焼きグリルを覗いては、固唾をのんで焼き加減を見守っている。 約束の時間は十二時半だけど、彼のことだからおそらくマナーどおりに五分ほど遅れて訪いを告げるに違いない。 いまかいまかと焼き上がりが待たれるノルウェーさばを筆頭に、メニューはもう実にありふれた、といった感じのものをなるべく自然にみえるようチョイスした。ただしなるべく旬の野菜をつかって、ひと皿ひと皿はっきり違う味付けにすることを心………………~続きを読む~
【WEB小説】『フナダマ』
船内の小さな神棚に塩と洗米を供え、ゴロージは恭しく拍手を打った。 出港前に船のすべてを検め、最後に神棚に礼拝するのは、ゴロージが船頭になってから欠かさない習慣だった。 かつて、船を新造するとその帆柱の根元に古銭や近しい女の髪などを納め、船の魂の拠り所としたという。 「フナダマ」と呼ばれるそれは、船と船乗りたちを守る霊力をもつと信じられ、時代が変わったいまもゴロージは頑なにその伝統を守っていた。 こうして礼拝を………………~続きを読む~
第一献 とりあえずのビールと、コリコリ砂肝にんにく炒め
ビールほど日本人に愛されているお酒はないかもしれない。 なぜなら「とりあえず」と言って注文するものなんて、ほかにはとんと聞かないから。「“生”でええやんな?」「“生”の人はー?」といえばもちろん生ビールのことで、最初の乾杯にはほぼこれ一択という雰囲気だ。 “ホット”といえばコーヒーを指すように、“生”といえばすなわちビール。「とりあえず生」の合言葉が、今夜も全国の酒場で繰り返されるだろう。 ぼくはあんまりお酒に強………………~続きを読む~
第二献 郷愁のウイスキーと、あつあつローストナッツ
焚き火のにおい、ってご存じでしょうか?木がはぜるときの、香ばしくどこか甘やかな煙のにおい。たぶん、これまでの人生でそう何度も体験したわけではないはずなのに、どうにもたまらなく懐かしいような、切なくあたたかいにおい。きっと焚き火には、遠い遠い祖先から受け継いだ、太古の記憶を呼び覚ます力があるのではないでしょうか。でも、実際に火を前にしているわけではないのに、そんな素敵な共感覚を起こしてくれる飲み物があるのです。
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第三献 あまくち日本酒と、お正月でもないのに伊達巻き
同じ原料からつくるのに、お酒ってどうしてこうも味わいが違うのだろうと、いつも不思議で仕方ない。
いや、正確に言うと原料が同じというのは使う素材の種類のことで、品種や銘柄によって特徴が違うことはわかる気がする。
ただ、単に「麦」といってもそれからビールやウイスキー、焼酎など全然風情の異なるお酒ができる、というのがとっても面白いのだ。
「酒」といえば日本語ではつまり日本酒のことを指す場合も多いけど、ぼ………………~続きを読む~
【WEB小説】『伊緒さんの食べものがたり』 ―目次―
いっしょだと、なんだっておいしいーー。
伊緒さんだって、たまにはインスタントで済ませたり、旅先の名物に舌鼓を打ったりもするのです……。そんな「手作らず」な料理の数々も、今度のご飯の大事なヒント。 いっしょに食べると、なんだっておいしい!
『伊緒さんのお嫁ご飯』からほんの少し未来の、異なる時間軸のお話です。
「アルファポリス」「エブリスタ」「カクヨム」にても公開中です。
目次
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第1膳 ここぞとばかりの「カップ麺」。これまた妙においしかったり
それはもう、ものすごい雨の日でした。 関西にある、かつて夫が育ったお家に引っ越してきた初日のことです。 荷物を解くのはまあ、おっぽらかしておいて、さっそく近くのスーパーに初買い出しに行くべかと思っていた矢先でした。 一天にわかにかき曇り、逆巻く風がすぐ裏手の山に当たって、不気味な唸り声をあげたのです。 あれよと言う間に空は臨界点を迎え、わたしは生まれて初めて「黒雲」が湧き上がる様子を目にしました。 カッ、と青紫の………………~続きを読む~
第2膳 夏祭り!夜店の食べ物って何でこんなノスタルジックなのでしょう
ぼくの育った地元には大きな川が流れていて、その川原で毎年お盆の頃に夏祭りが行われる。 近隣では有数の規模のお祭りで、盆踊りとか灯籠流しとか打ち上げ花火とか、とにかくフルコースの行事だった。 そしてものすごいのが夜店の屋台で、河川敷いっぱいはおろか、沿道にまでわんさかはみ出してひしめくのだ。 普段は夜になると真っ暗な界隈なのだけど、この日ばかりは遠くからでもその灯りが認められて、幻想世界の夜市が開かれているかのよう………………~続きを読む~
第3膳 旅行の朝のバイキング。さあ、狩りの時間がやってきました
お小づかいを貯めてときおり旅行にいくのは、わたしたち夫婦の大きな楽しみのひとつです。 でも、あんまり有名な観光地とかテーマパークとかには行きません。 知る人ぞ知る古代遺跡とか、整備されていない山城の跡とか、万葉歌人が旅した道とか、かなりマニアックな場所を訪ねて歩くのがわたしたちのお気に入りです。「ええ!あったらトコなあーんもねえでやあ!やいやい、モノ好きな姉っこだでなあ!」 的なことをよく言われるのですが、それこ………………~続きを読む~
第4膳 土用の丑がやってきた!うなぎを食べねばなりますまいよ
暑い。 それはもう、暑い。 この暑さをなんとかかんとか乗り切ろうと、気力をふりしぼったのは古代の人も同じだったのだろう。 万葉集にこんな歌が記されている。
石麻呂に
我もの申す 夏やせに
よしといふものぞ
むなぎ捕りめせ
「むなぎ」とはうなぎのことで、胸のあたりが黃色いことから「胸黃」が語源ともされている。 やせっぽちだった「石麻呂」という人物を心配して、夏場にスタミナをつ………………~続きを読む~
第5膳 なんか駄菓子をたくさんもらったぞ!「地蔵盆」?なにそれ、ねえ
どういうわけか、駄菓子が詰め合わせになった袋を抱きかかえて伊緒さんが帰ってきた。 きょとんと不思議そうな顔をして、あたまの上にたくさんのハテナが浮かんでいる。 なんで突然こんなにお菓子をもらったのだろう、わたしいったい何してるんだろう。 そんなワンダーに満ちた状態で、ことのあらましを語り始めた。 「お家の下の坂をおりきった辻に、お地蔵さまの祠があるでしょう。なんだかそこがすごく賑やかで、なんだべなんだべって覗いて………………~続きを読む~
第6膳 たこ焼きとプラネタリウム。大阪デートの定番おやつです
ぼくが育った関西地方の田舎街に引っ越してきてから、伊緒さんとちょくちょく大阪に遊びに出かけるようになった。 札幌育ちの彼女にとって関西の街並みはいまだに珍しいらしく、大阪なんてそれこそ「異郷」を通り越して「魔境」みたいなものかもしれない。 とはいえぼくのイメージでは、北海道民は大阪に好意的な人が多いような気がする。 関西弁圏の方が道内に旅行することがあれば、旅先ではきっぱり訛ってみてほしい。 きっと、 「おおっ!………………~続きを読む~