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まるで『鬼滅の刃』の不死川玄弥!?“鬼喰い”のメタファーと解釈された、行事食の由来について

物書きばなし
うっちん☆さんによる写真ACからの写真
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“鬼”がちょっとブームな昨今

『鬼滅の刃』という作品が空前のブームを巻き起こし、店頭からコミック品切れが相次ぐという事態になっています。

わたしもこんな現象は初めて出遭ったもので、出版不況といわれて久しい昨今、よいニュースの一つではないかと思っています。

『鬼滅の刃』は人間を虐げる「鬼」と呼ばれるヴァンパイアのような異形に立ち向かう、「鬼狩り」の剣士たちのお話です。

「鬼vs人」という日本古来のテーマを主軸としながら、ハードな展開と心を打つ描写が老若男女問わず、大きな支持を得ているのはご存知の通りですね。
アニメ化での大成功もあり、もはやクラシックになることを約束された作品といっても過言ではないでしょう。

さて、数ある魅力的なキャラクターの中でも異質なのが、敵である鬼を捕食してその能力を得るという「不死川玄弥(しなずがわげんや)」です。

彼は鬼の肉体を食らうことで、一時的に鬼のような怪力と再生能力などを得るという特異体質の持ち主なのですが、実は日本の伝統行事のなかにはこの「鬼喰い」にルーツをもつとするものがあるというのです。

それは誰しもが知っている、カレンダーにも載っている有名な行事の数々。

いわゆる「五節句」です。

今回は、そんな「鬼喰い」の行事食についての説をみてみることにしましょう。

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「厄除け」としか知らない節句の行事食

「五節句」といえばすこし難しく聞こえるかもしれませんが、季節の年中行事としてわたしたちにもとてもなじみ深いものばかりです。

  • 1/7…七草
  • 3/3…ひな祭り
  • 5/5…こどもの日
  • 7/7…たなばた
  • 9/9…菊の節句

以上の五つのことで、いずれも健康を祈ったり楽しいイベントを行ったりする日として定着していますね。
これらの節句としての正式な名称は、

  • 1月…人日(じんじつ)
  • 3月…上巳(じょうし)
  • 5月…端午(たんご)
  • 7月…七夕(しちせき)
  • 9月…重陽(ちょうよう)

といい、古代中国で不吉とされた日の厄払いが元になったとされています。

そして、それぞれに健康や長寿を祈る独特の行事食が用意されますが、ほとんどが「厄除け」という意味合いで説明されているかと思います。

では、なぜそれらの食べ物が厄除けの力を持つのでしょうか。

室町時代の御伽草子のひとつ、『貴船の本地』という書物からそれを探ってみましょう。

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「鬼の王」との関わりを語る、貴船神社の縁起由来譚

『貴船の本地』は室町時代後期に成立した、京都・貴船神社の神に関する伝説を記した物語です。

これによると、鬼の王の娘「乙姫」と恋に落ちた「中将定平」のことが記されています。

乙姫とともに鬼の国へと向かった中将ですが、父である鬼の王の怒りを買い、身代わりに姫が殺されてしまいます。
悲しみとともに元の世界へと戻った中将でしたが、やがて身辺に生まれた女の子が姫の生まれ変わりだったことが判明します。
成長した姫とついに結ばれた中将でしたが、そこへ鬼の王が節分の夜に襲来します。
しかし陰陽師の占いによって鬼を払う方法「追儺式」を行い、無事に鬼の王を退けた二人は、やがて恋路を守護する貴船の神となりました……。

というお話です。
ずいぶん異世界ファンタジーな物語で、いま読んでもおもしろいですね。

これは節分の「豆まき」の起源としても語られますが、『貴船の本地』には各節句での行事食の意味を、鬼払いに絡めて詳しく記述しています。

以下にそれをみてみましょう。

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節句の食べ物=鬼の肉体!?

『貴船の本地』における行事食・行事飾りの意味は以下の通りです。

  • 1/7……門松=鬼の墓標 、羊歯(しだ)=鬼のあばら骨、譲葉=鬼の舌
  • 節分………鰯=鬼の頭
  • 3/3……桃の花=酒に入れて飲む鬼の眼、草餅=鬼の肉
  • 5/5……粽(ちまき)・菖蒲=鬼首を剥いで食べる意味
  • 7/7……素麺=鬼の腸
  • 9/9……菊酒の菊の花=鬼の眉

等々、実におそろしげなことが書かれています。

つまりそれぞれの行事で供される行事食とは「鬼の肉体」のメタファーであり、これを食することで鬼を打ち払い調伏するという意味合いをもっているというのです。

「厄払い」とは、そういった「鬼喰い」に由来するという説が室町時代後期には成立していたことになりますね。

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室町時代には定着していた、鬼の調伏としての節句行事

『貴船の本地』よりも古い『貴船の物語』という作品にもよく似た記述があり、そしてそれらに先行する嘉吉六年(1446)成立の百科辞書『壒嚢鈔(あいのうしょう)』にも、3~9月の節句が鬼や病を除けるものと記されています。

壒嚢鈔 では七夕と重陽の節句について『貴船の本地』と同じく鬼の肉体になぞらえた行事食の記述があり、この頃すでに疑似的な「鬼喰い」による調伏への観念が成立していたとみることができるでしょう。

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行事ごとのお菓子も「パワーアップ」と思って食べてみては?

わたしはこれまで五節句の行事といえば、

「ちまき食べられる日!」
「草餅食べられる日!」
「菊酒飲める日!」

等々くらいにしか思っていなかったのですが、これからは上記の古文献に則り「鬼喰い」により邪を祓うという気持ちを持ってみようかと思います。

昔の人は、恐ろしい鬼を調伏するという意味で食べ物を鬼の肉体と見立てた面もあったのでしょうが、もしかすると鬼の持つすさまじい力にあやかりたいという願いもあったのかもしれませんね。

それこそ冒頭の『鬼滅の刃』登場人物「不死川玄弥」のように、鬼の力を得てパワーアップするといった気魄と思いを込めて、悪疫退散を願うのもよいのではないでしょうか。

帯刀 コロク・記

〈主要参考文献〉

『壒嚢鈔』(日本古典全集) 道誉 他 日本古典全集刊行会 1936

「 中世における粽伝承 と年中行事一室町期食文化の周辺―」『帝塚山大学現代生活学部紀要 第5号』
小林美和・富安郁子 帝塚山大学 2009

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