伊緒さんのお嫁ご飯

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物書きばなし

『伊緒さんのお嫁ご飯』のできるまで ② ―執筆編―

通勤電車の中、スマホで書いた 『伊緒さんのお嫁ご飯』で、初めてスマホで小説を書くという経験をしました。それまでは机に向かってPCで書く、というのが基本でしたが、これで空き時間の多くを執筆にあてることができるようになりました。フリック入力での執筆、というのに当初抵抗があったのですが、慣れるとむしろ感覚的に文章が生まれる際にレスポンスの速さを快適に感じました。このおかげで、通勤電車が完全に書斎代わりになってくれま………………~続きを読む~
物書きばなし

『伊緒さんのお嫁ご飯』のできるまで ③ ―メニュー編―

一度はつくった家庭料理にこだわった 『伊緒さんのお嫁ご飯』で登場するメニューは、いずれもごくありふれた家庭料理ばかりです。グルメを描いた作品も大好きなのですが、やはり普段お家で口にするものこそ、一番大切だと思ったからです。メニューを選ぶのにこだわったことは、なるべく「自分自身か家族が一度はつくったことのあるもの」にすることでした。食べるシーンも大事なのですが、つくっている最中の手際やちょっとしたコツなどを描く………………~続きを読む~
小説ごはん

お正月でなくても!コスパ抜群の「伊達巻き」

おせちの定番を手づくり 『伊緒さんのお嫁ご飯』には、けっこうな頻度でお正月の話題が出てきます。それというのも、伊緒さん夫婦はそれぞれの出身が北海道と和歌山で、なかなか食文化のギャップがあるためです。たとえば札幌では、おせち料理は大みそかの晩から食べますが、和歌山では元旦にお重を開けるのが一般的です。お正月行事って、地域の特色が如実に表れるのでおもしろいんですよねえ。なぜかお正月しか食べないような料理も多いので………………~続きを読む~
小説

第1膳 ここぞとばかりの「カップ麺」。これまた妙においしかったり

 それはもう、ものすごい雨の日でした。 関西にある、かつて夫が育ったお家に引っ越してきた初日のことです。 荷物を解くのはまあ、おっぽらかしておいて、さっそく近くのスーパーに初買い出しに行くべかと思っていた矢先でした。 一天にわかにかき曇り、逆巻く風がすぐ裏手の山に当たって、不気味な唸り声をあげたのです。 あれよと言う間に空は臨界点を迎え、わたしは生まれて初めて「黒雲」が湧き上がる様子を目にしました。 カッ、と青紫の………………~続きを読む~
小説

第二椀 「君の味噌汁を毎日飲みたい」と言われても、実はすごくたいへんなのでは

 伊緒さんにどういう感じでプロポーズしたのか、実はほとんど覚えていない。 その前後の記憶があいまいな理由はまあ、おいおいお話しするとして、何やらしきりに「味噌汁」のことを言っていたのだという。 「君の味噌汁を毎日飲みたい」 というプロポーズの文句は、もはや無形文化財ともいえるほど伝統的かつレトロなもので、この封建的なセリフが僕は大嫌いだった。 考えてもみれば、これは家庭に入った女性が食事を支度して、しかも味噌汁とい………………~続きを読む~
小説

第三椀 伊緒さんのハンバーグは子どもはおろか、大人だって小躍りして喜ぶのだ

 およそ「子どもが喜ぶ」といわれるメニューには洋食が多い。 カレー、スパゲティ、オムライス、エビフライ等々、どれも食べやすくて味付けもきっぱりと分かりやすく、何よりそこはかとない華やぎのようなものがある。 子どもの頃の僕は、こういったメニューに喜んでみせることを、とても恥ずかしいことだと思っていた。 子どもだからエビフライが好きだろう、オムライスがいいんじゃないか、とたまに会う親戚の大人たちが気遣ってくれたりするの………………~続きを読む~
小説

箸休め 「〆のお茶漬け」、僕だってたまには付き合いで遅くなることもあるのです

 僕は小さな小さな出版社に勤めている。 社史とか自分史とかを主に扱う会社で、かっこよく言えば「書籍編集者」という職業だ。 でも零細なので、実際には取材から簡単なライティング、編集に校正、印刷手配まで、つまり何でも自分でやらなければならない。 と、言いつつも僕はこの仕事をとても気に入っていて、なんだかんだで楽しくやっていけているのは幸せなことだと思う。 職業柄、いろいろな人と関わることになるので、お酒の席へのお誘いも………………~続きを読む~
小説

第七椀 「とろふわ朝食たまご」。シンプルな料理ほどむずかしいのは本当です

 伊緒さんも僕もお米が大好きなので、ふだんの主食はほとんどご飯だ。 でも、ふたりで寝坊できるお休みの朝なんかは、無性にパンが食べたくなってしまう。 トーストの焼き加減は、伊緒さんはほんのりと。僕はこんがりと。 トースターの前でじぃーっと目を光らせて、ベストなタイミングで取り出すのは僕の役目。 あとはその時の気分でコーヒーか紅茶を選ぶのだけど、伊緒さんはどちらかというと紅茶党で、僕はコーヒー党だ。 今朝は珍しく伊緒さ………………~続きを読む~
小説

第九椀 直球の「肉じゃが」。男はなぜこうも、この料理に弱いのか

 男はなぜ、「肉じゃが」に弱いのか? 天保年間に始まったという「彼女に作ってほしい手料理ランキング」では、爾来150年の長きにわたって不動の王座に君臨し続けている暴君だ。 そのあまりのベタぶりに、世の女性はうっかり「得意料理は肉じゃがです」などと口にするのもはばかるという。 肉じゃがそのものは決して難しい料理ではない。 基本組成はカレーとほぼ同じであり、カレールーがないことに気づけば最初からこうするつもりだったんだ………………~続きを読む~
小説

箸休め かんたん「チーズフォンデュ」。今日はぼくが伊緒さんを喜ばせます

 歴史ライターのお仕事をしている伊緒さんは、完全在宅ではなく時おり取引先の編集プロダクションなどに出向しなくてはならない。 打ち合わせとか、企画会議とかいろいろあるのだけど、たいがい夜遅くなるのでぼくの休日と重なったときはつまらない。 これまではさみしく彼女の帰りを待ちわびて、ドアの向こうに伊緒さんの気配がするやいなや、短いシッポを振り回して一目散に駆け寄っていくというのがお決まりだった。 だが、これからのぼくは違………………~続きを読む~
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