紀見峠の麓、穴場の温泉旅館
「ここが大阪府なの!?」
そんな隠れ家的なスポットの一つが「奥河内(おくかわち)」。
大阪府と和歌山県の境界に位置する、静かで清冽な峠のふもとです。
南海高野線「天見駅」下車すぐのところに、天然温泉を擁する旅館「南天苑」があります。
高野参詣のルート上にあたるこの地域は、南北朝の頃から湯治場として知られていました。
そんな伝統ある土地に佇む温泉旅館は、日帰りでお料理をいただくこともできるのです。
今回は母の74歳の誕生日に、家族でお世話になりました。
あまりにも素敵だったので、ぜひご紹介したいと思います!
辰野金吾博士の事務所が設計!大正ロマンあふれる本館
駅を降りると、もう目の前に「南天苑」があります。
ここの本館はなんと、東京駅丸の内駅舎などの設計で知られる、「辰野金吾」博士の事務所が設計したことが分かっています。
学術的に判明したのは2002年のことですが、翌年には国の登録有形文化財として登録、レトロモダンな建築が人気を博しています。
映画のセットみたいな、素敵な内装
大正ロマン、という言葉がしっくりくるレトロな内装は、まるで映画の世界に迷い込んでしまったかのようです。
歴史に裏打ちされたゆったりとした空気が流れて、心がほぐれていくような落ち着きを感じます。
天然ラジウム泉と、心づくしの会席料理。
日帰りプランでは、天然温泉のお湯をいただいて食事をすることができます。
少しとろみがあって、ピリッとするお湯はすごく体が温まります。
そして、何よりもここ南天苑は、お料理が本当においしいのです。
あれこれ書くよりも、写真をご覧いただくのが一番いいように思います。
キャプションは内容に徹することとして、ご覧くださいませ!
八寸はチーズを抱いたスモークサーモンの巾着が、鬼灯に見立ててあってすごくお洒落!
「これ丼いっぱい食いてえ」などと品のないことを言いながら、どれもおいしくいただきました。
お造りはぷりぷりもちもちの鱧、厚切りの鱸洗い。
あしらいが珍しく、とろりとした「つるむらさき」、そして「はすいも」はシャキシャキと爽やかな食感で、楽しい涼味を感じさせてもらいました。
出汁の味がキュッときいた、涼やかな炊き合わせ。
夏らしい器もかわいらしく、目にも楽しい一品。
そしてサプライズ!
予約時に母の誕生日で、とお伝えしたのですが、なんとご当主直筆のバースデーカードとプレゼント、そしてメニューにお赤飯というサービスが!
母ももちろん大喜びでしたが、見ているこちらの胸が熱くなるようなお心遣いでした。
多謝。
この焼き物の鮎が、魚籠に見立てた盛り付けでとってもかっこよかったです。
わたしの奥さんは札幌の人なのですが、鮎がとっても珍しいらしくてすごく喜んでいました。
わたのほろ苦さと、しっとりふくよかな白身の甘さが、蓼酢でしゃきっと引き立ちます。
ものすごくおいしかった……。
鱧といえば梅肉ですが、
そうかなるほど、「ゆかり揚げ」にするんだ!
締めのご飯には、青山椒を使ったちりめんが。
ぴりぴりと舌を刺激する爽やかな辛みで、どんどん箸が進みます。
ご飯そのものもすごくおいしい。
おつゆもやさしく、滋味あふれる味わい。
香の物にも、「ああ夏だ」としみじみ感じる情趣。
デザートに、さっぱりとしたぶどうのゼリー。
「水菓」の意味を、目でも舌でも感じさせてくれました。
迂闊にも写真を撮り忘れたのですが、ほかにもドライバー用のアペリティフとして、ワインを醸造するときのぶどう果汁を使ったノンアルコールワインを出していただきました。
奥さんが殊の外これを気に入って、グラスでおかわりしていました。
キュッとぶどうの渋みが鮮烈な、大人のジュースです。
心づくしの「おもてなし」を、心ゆくまで堪能できる宿
建築も、お湯も、お料理も、もちろんすべて夢心地の素敵さなのですが、なによりも気分がいいのはお給仕をしてくださったスタッフの方々の心遣いと立ち居振る舞いでした。
こちらが気を遣わないで済むよう、終始にこやかで気さくに、しかも話題が途切れないように楽しませてくれました。
素晴らしいプロの仕事に感じ入りつつ、本当に気持ちのいい時間を過ごすことができました。
近年では海外からのスタッフもおられるのだとか。
四季折々の山家の景と、心づくしのもてなしにゆったりと過ごすひと時。
超おすすめの、大阪の隠れ家です。
ぜひ一度、お試しあれ。
三條すずしろ・記
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