茶聖・千利休の故郷、堺
日本文化を語るうえで欠かすことのできない要素の一つに、「茶道」があります。
単に抹茶を喫するという行為に留まらず、建築や美術、服飾や料理等々、広範囲にわたる文化を内包した総合的な芸術ともいわれています。
現代の茶道の源流となった「侘び茶」を完成させたのが言わずと知れた「千利休」で、彼の出身地である堺にはいまなおその気風が受け継がれています。
そんな堺には、利休が生きた時代の懐石をイメージしたお料理を食べさせてくれるお店があります。
「梅の花 さかい利晶の杜店」がそうで、この店舗だけの限定メニューである「利休」をいただいてきました。
さかい利晶の杜
「さかい利晶の杜」とは、堺が誇る茶人・千利休と、歌人・与謝野晶子をテーマとした文化観光施設で、2015年にオープンしました。
利休の「利」と晶子の「晶」を一字ずつとった通りに、内部は資料館となっており茶道の体験や復元茶室の利用などができるようになっています。
「梅の花」は豆腐や湯葉を中心とした和食レストランで、この利晶の杜にその一店が併設される形で出店されています。
懐石コース「利休」
安土桃山時代、利休が生きた頃の茶会で出されたメニューや食材をイメージしたコースです。
お品書きは以下の通りで、季節やタイミングによって食材が変わるとのこと。
・鮑の柔らか煮
・長芋の海鼠腸(このわた)掛け
・季節のお造り
・生麩田楽
・合鴨の治部煮
・魚の焼き物
・汁物
・香の物
・赤飯
・抹茶しるこ
お品書きの説明によると、いずれも利休の茶会ではよく用いられた食材とのこと。
鮑は縁起物でもあり、武家の儀式にも不可欠なものだったためポピュラーだったのでしょうか。
季節のお造りは味付けしたまぐろに、山芋と崩し湯葉をかけたもの。
そして鮭の「氷頭なます」です。
「氷頭(ひず)」は鮭の頭の軟骨のことで、薄切りにしたそれはコリコリとした食感でとてもおいしいものでした。
まぐろはいわゆる「ヅケ」になっており、山芋と湯葉のとろりとした舌ざわりがやさしく、しっかりした味付けでお酒がほしくなってしまいます。
生麩を甘めの味噌で田楽に仕立てたもの。
もちもちとして、とても楽しい一皿です。
けしの実がぷちぷちと弾けてアクセントを添えてくれます。
「治部煮」とは加賀の郷土料理として有名で、小麦粉をはたいた鳥肉を用いるため、つゆにとろみがつくのが特徴です。
お品書きの解説によると、利休の茶会では鶴・白鳥・雁などの多彩な野鳥が用いられたことに因んで合鴨を使ったとのこと。
焼き物は「鯛の若狭焼き」でした。
若狭焼きといえば本来はウロコを付けたまま焼く調理法のことのようです。
甘酢にくぐらせた牛蒡が、素敵な箸休めでした。
締めの食事はお赤飯・湯葉のお吸い物、香の物には刻んだ白菜漬け、わかさぎの佃煮。
白菜漬けには根昆布としその実が混ざり、細やかです。
もっちりとしたおこわと、お吸い物の湯葉のふんわり感がとってもやさしい気持ちにしてくれます。
デザートに、冷たい抹茶に餡入り麩餅を浮かべたスイーツ。
控えめな量が実にほどよく、お茶事の気分を味わうことができました。
器はばっちり「織部焼」
お料理の器には、緑釉が印象的な織部焼が使われています。
古田織部といえば「へうげもの」という漫画ですっかりおなじみになりましたが、一体どんな人物だったのか興味が尽きません。
「懐石」と「会席」
「懐石」といえば本来は濃茶を喫する前に、胃に負担をかけないよう軽い食事を供したものをいうそうです。
そこでは最初にご飯と汁と、向付(むこうづけ)というお造りやなますなどのおかずが出されます。
その後、椀物や焼き物、八寸などの酒肴が出されるという順序で、現在一般的な「会席」とはずいぶんイメージが異なりますね。
いずれにせよ、「もてなす」ためにはぜいたくな食材でなくとも、温かいものは温かく、冷たいものは冷たく、真心こめて供することが肝要と利休の時代から伝わっています。
現代でもそれはまったく同様で、400年前のおもてなしの精神に少し触れられたような、素敵な食事となりました。
ごちそうさまです。
三條 すずしろ・記
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