松田 紙弥(まつだ しみ)とは
今回のおすすめ作家さんは「松田紙弥」さん。
宮崎県美郷町が主催する「西の正倉院みさと文学賞」において、第2~4回の3年連続で入賞された日向の才筆です。
その確かな筆力と練り上げられた物語の数々。私も夢中で作品を読んでいる大好きな作家さんのお一人です。
今回はそんな松田紙弥作品のうち、短編7作をご紹介します。
※各作品のあらすじではほんの少し本編の内容が含まれます。
ネタバレ厳禁の方は薄目を開けてお読みくださいませm(__)m
『人魚の春』
こちらはTwitterで展開された「#2022GW覆面企画」に参加された作品で、「人魚」のお題で書かれたもの。
“覆面”とあるように当初はいずれも作家名を伏せて投稿されていましたが、流麗な筆致と独特の雰囲気が松田作品らしさを醸していますね。
妖しくも美しい水の怪異の物語、人魚たちとともに心の水底を覗いてみてはいかがでしょう。
『ヤモリの恋』
切なさ必至、甘やかしあり、濡れ場なし、全年齢OKのBL作品です。
遥のタワマンに居候する玲司は秘かに彼に思いを寄せるが、その気持ちを押し隠すようにして暮らしていた。
ところがある日、遥に彼女ができたことを知り――。
BLでもGLでも、人が人を好きになる気持ちは変わらないものでしょう。
しかしある種の制限が、このジャンルから受ける印象をピュアなものにしているように感じられます。
おすすめポイントの一つは、冒頭に出てくる玲司の手料理。
手間のかかるボリュームメニューでもあり、そこに込められたたしかな愛情が伝わってくるようです。
『人ひとり』
第2回のみさと文学賞で佳作を受賞した本作。
宮崎県の美郷町に伝わる、戦乱を逃れて百済から漂着したという「禎嘉(ていか)王」の伝説をベースにした古代史小説。
高潔な流亡の王と、彼を取り巻く在地の人々との心温まる交流が静かに胸を打ちます。
百済の高度な知識を携えた禎嘉王の、苦悩する賢者としての生き様も清々しく、登場人物の日向方言がより情趣を誘う一編です。
『Lovely Place』
こちらは第3回みさと文学賞で佳作を受賞した作品です。
女の子同士の恋愛とシンプルに括るよりも、「LGBTQ」というテーマを扱った作品と捉えています。
必ずしも甘いだけの物語ではなく、苦しみを抱えつつも愛する気持ちに目を背けない人たちの強さに、爽やかな読後感を覚えました。
「大事なやつの手は離したらいかん」
この台詞が心に響いています。
美郷町のおすすめデートスポットが登場するのも楽しいですね!
『姫さま、家を出る』
第4回みさと文学賞佳作。これにより松田紙弥さんは3年連続で当賞での入賞を果たされました。
百済王家の末裔・那智姫は、幼い頃から見知った飛胡一人を共に旅に出ます。
王家の名、郷のしがらみ、そんなくびきから自由になるための徒手空拳の道行。
姫の前には数々の困難が立ち塞がりますが、二人は比翼の鳥のごとく新天地を目指して進み続け――。
いつかずっと昔、こんな二人がいて私たちの祖先に連なったのかもと思わせる、一組のアダムとイブの冒険譚です。
『聖女様から「私の勇者様に限ってそんなことあるはずないんですけど探ってきてください」と頼まれました。』
こちらは紙弥さんのご学友からのお誘いで、三題噺&世界観リクエストを交えて制作された作品とのこと。
聖女が記者に、勇者の素行調査を依頼するというファンタジー世界のコメディで、結論をいうとめちゃくちゃ笑いました。
カクヨム版にはレビューも寄稿させて頂きましたが、この筆力でおもしろいことを書くともはや「ずるい」とまでいえますね(笑)
制作の経緯は紙弥さんのサイト「Shimi’s BAR」で詳しくレポートされていますので、ぜひ併せてお楽しみください!
『道標』
ある物語について前日譚の体裁で語られる、異世界ファンタジーの一編。
流浪の無頼漢が亡国の姫を主と奉じるまでの一齣を描いた作品で、透徹したハードボイルドな空気がなんとも刺激的です。
この掌編のみで世界観の広がりを強く感じさせるという離れ業を披露しており、思わず続きをリクエストしたくなってしまいますね。
「松田紙弥」作品の魅力
松田紙弥さんは様々なジャンルの作品を手掛けておられますが、いずれにも通じていえることは「一文一語の情報量」が群を抜いて豊かであることです。
それらは決して難しい言葉や修飾的な表現に頼っていないのにもかかわらず、さりげない文から圧倒的なイメージを起こさせる力を持っています。
この筆致は「特殊能力」と評されることも頷ける不思議な力に感じられ、読む人に鮮明な共感覚を与える文は一つの境地といっても過言ではありません。
また、紙弥さんは先述のサイトで他の作品や、創作に関するヒントなども公開しておられますのでこちらも併せてご覧ください。
ぜひぜひ、いくつかのジャンルを横断して作品を楽しんで頂きたいおすすめの作家さんです。
三條すずしろ・記
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