京都府警の特殊部隊、“人外特別警戒隊”の活躍
皆さんは、京都を訪れたことがおありでしょうか?
“千年の都”の尊称に違わぬ、重厚で凛とした空気感。
それでいて、思いのほか懐っこく温かな人情味。
古来の伝統と現代的な軽やかさが共存する、そんな不思議な魅力の虜になった人はあとを絶たず、洋の東西をも問いません。
ですがそんな華やかな京都で、時折何かの視線を感じたり、急に寒気や頭痛がしたり、といった経験はありませんか?
そうですか。
きっと、そうではないかと思いました。
そんなあなたは、”霊力”をお持ちのようですね。
それは京の都に棲まう、人ならざる物々、すなわち「あやかし」たちの仕業かもしれません。
悪寒程度ならよいのですが、あやかしは時に人々へ深刻な影響を与えることがあります。
そんな事態に即応すべく、京都府警には対あやかし専門の特殊部隊が存在するのです。
今回おすすめする作品は、”京都府警察 人外特別警戒隊”=通称「あやかし課」の隊員たちの活躍を描く、天花寺(てんげいじ)さやか先生作、『京都府警あやかし課の事件簿』です。
古都を舞台にした、あやかし達との捕り物劇。
その魅力の一端を、ご紹介したいと思います!
あやかし課の新任女性隊員、「古賀 大(こが まさる)」の日々
物語の主人公は、あやかし課の新人隊員である「古賀 大(こが まさる)」。
一見、男性のような名前ですが花も恥じらう二十歳の乙女です。
“京都府警察 人外特別警戒隊”の正式名称をもつ特殊部隊であるあやかし課の各拠点は、普段は一般的なお店や商売でカモフラージュして、市井の生活に溶け込んでいます。
大が着任した“八坂神社氏子区域事務所”は、昭和レトロなカフェ「喫茶 ちとせ」の姿をとっていました。
大は個性的ながらも温かな先輩隊員たちとともに、京都の治安を守るためあやかし達と向き合う任務に就くのでした。
あやかしや神仏との距離の近さ! すぐそこにある異界
物語を通じて印象的なのは、京都の町のそこかしこにあやかしや神仏が当たり前のように存在する、「距離感」の近さです。
あやかし達の中には、例えば酔っぱらって道端で眠りこけてしまう、といったような、それだけで済めばちょっと迷惑なだけのコミカルなケースもあります。
「大丈夫ですかー。こんなとこで寝とったらカゼひくでー」
と、普通のお巡りさんがしてくれるような世話焼きをあやかしにするのも、立派な仕事です。
もちろん、限度を超えて暴れ出した場合は“逮捕”せざるをえないこともしばしば。
公務執行妨害?にあたるのでしょうか(笑)
そして、神さまや仏さまといった高位の存在もまた、とっても身近なところにいるのです。
超越的な存在としてというよりはむしろぐっと人間臭く、十分に敬って接することで加護を与えてくれる、心強い味方として描かれています。
寺社仏閣がたち並ぶ、京都らしい神仏との距離感かもしれませんね。
神様の中にはいたずら好きでお茶目な方もおられるので、そんな「暴走ぶり」もみどころのひとつです。
全編に溢れる”バディもの”としての魅力
あやかしへの対応は、時として激しい戦闘になることもあります。
そのため隊員たちは、各自得意の武器や技の鍛錬を欠かしません。
主人公である大が遣うのは、邪悪なものだけを断ち斬る破魔の日本刀。
他の隊員たちもそれぞれ霊力を込めた拳銃・薙刀・体術、さらには結界術などを駆使します。
常人からすれば特殊な力をもった彼らですが、強い霊威のあやかし達には単独では太刀打ちできないこともあります。
さればこそのチームワーク、そこは実に”警察官”らしく見事な連携でお互いに背中を預け合い、事件解決に尽力するのです。
なかでも白眉なのが、大の先輩であやかし課のエース、「坂本塔太郎」。
雷神の力を使役して、身一つの徒手空拳で闘う好漢です。
そして大自身の能力にも、ある秘密があって……。
状況に応じて柔軟な連携をとるあやかし課の面々ですが、大と塔太郎のチームは特に応援したくなってしまいます。
単なる先輩・後輩の関係に留まらなさそうなこのバディ、これからどうなるのか気になって仕方ありません(笑)
「心の闇」と闘うことへのメッセージ
凶暴なあやかし達は、一見すると理外の悪意を人々に向けているかのように感じます。
ところが、その影響や元凶を辿っていくと、実は人間そのものの「心の闇」が深く関わっていることに気付かされます。
超常的な事件や出来事も、現象としては不可解でもその実は、日常に潜む人間社会の問題と何ら変わらないのです。
心の隙間や弱さ、蓄積したネガティブな感情。そんな人間の「闇」こそがあやかしを生み出してしまうのかもしれませんね。
事件の解決はいわば「祓え」のようなものでもあり、清々しいカタルシスを感じさせてくれます。
まずはいったんのまとめ
わたしがもっとも印象に残ったエピソードは、第二話「先斗町・命盛寺の伝説」。
“鎮魂会”という恒例行事(儀式)を中心にしたエピソードなのですが、ざっくり言うと”もったいないおばけ”の供養を目的とした法要のお話、と例えられるでしょうか。
食べ物とは、すべからく”命”だったもの。
だからこそ、粗末にしてはならない――。
そんな当たり前でありながらも、疎かにされてしまっている現実を、心に突きつける1遍です。
“鎮魂”の仕方そのものは、もしかしたらほかにも方法があるのかもしれませんが、「いただきます」の本当の意味を改めて考えさせられました。
わたしは食べ物を主題にした作品を書きながら、これまでこの物語で扱われているテーマに、思い至ることができていませんでした。
作者の思いがまっすぐに伝わってくる、いちばん好きなエピソードです。
さてさて、まだまだ喋りたいことは山積みですが、あとはぜひ本編でお楽しみください。
「第7回 京都本大賞」を受賞し大人気となった本作、すでに8巻を数えています。
そうそう、当作品の聖地巡礼で京都を訪れることもあるかと思いますが、霊力の強い方ほど”あやかし課”の隊員から職務質問を受けるかもしれません。
そんなときは、ぜひとも捜査へのご協力をお願いいたしますね。
三條 すずしろ・記
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