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【紀伊 零神宮のあやかし文化財レポート】第11章 岩橋千塚と常世の仙果。龍追う人と幻の南葵楽譜

南葵なんき楽譜と音色の結界 「コンサートって……あのコンサート?ですか?」 差し出されたチケットを前に、きょとんとしたわたしはまた阿呆のような質問を繰り出す。 「そっ。ええですよお。野外で聴くクラシック。紀伊といえば音楽、音楽といえば紀伊やさかい」 初めて聞くようなことをにこにこしながら嬉しそうに語るのは、久々のオサカベさんだ。いつものようにふらりとcafe暦にやってきて、唐突にわたしとユラ………………~続きを読む~
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【紀伊 零神宮のあやかし文化財レポート】幕間 あやかし文化財レポート・その7

「ねえユラさん。このお店の名前とその本って、なにか関係あるんですか?」 お客さんがはけた午後、わたしは久しぶりにcafe暦を手伝いながら前から気になっていたことを聞いてみた。 ユラさんが目を落として指先で紙面をなぞっている、手づくりの和綴じ本。以前に彼女はこれを「完全な暦」と呼び、陵山古墳や裏高野の結界を張り直す日取りを決めるためにめくっていたのだった。 「うん?そうやね。お祖父さんが名付けたんや………………~続きを読む~
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【紀伊 零神宮のあやかし文化財レポート】第10章 臨海学校と真白良媛の悲恋。蘇る西牟婁の牛鬼たち

真白良媛ましららひめ 「このお店はね、私のおじいちゃん…橘宗月そうげつが始めたんよ。お神酒の振る舞いはあったけど、世の中があんまり日本酒飲めへんようになってったさかい。カクテルにしたらどうかって」 bar暦のカウンターで、ユラさんはぽつぽつと家族の話をしてくれるようになった。紀伊各所の鎮壇を再地鎮していく任務を帯びてからというもの、ユラさん不在の時は多くなった。 けれどこちらに帰っている間は、他の………………~続きを読む~
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【紀伊 零神宮のあやかし文化財レポート】幕間 あやかし文化財レポート・その6

湯船に身を沈めると、ゆるゆると身体が溶け出していくかのようだ。 思わずうめき声をもらしそうになるけど、隣のユラさんは傷の痛みに耐えつつ湯に身を浸している。 ここは田辺市の“龍神村”。 海辺の田辺市街と高野山の中間くらい、大和との境に沿った山中の村だ。その名の通り龍の神を祀る祠や神社があり、かつて大陰陽師・安倍晴明が訪れた伝説も残されている。その痕跡は晴明神社や、彼があやかしを封じたという猫又の滝な………………~続きを読む~
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【紀伊 零神宮のあやかし文化財レポート】第9章 中辺路の河童、ゴウラの伝説。天地の松と永遠の狛犬

歪な結界 「えっ、和歌山にもカッパっているんですか?」 実に意外に思って、ユラさんに訪ねた声がつい大きくなる。 「ちょっ、あかり先生、声」 cafe暦のテラス席で、ユラさんがちょっとあわてて人目を気にするのがなんだかおかしい。 まあまあ、これだけ聞かれたところで妖怪と遠野物語が好きな女子たちと思って、生温かい目で見てもらえるだろう。 紀伊各地の鎮壇を再地鎮する任務を帯びたユラさん………………~続きを読む~
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【紀伊 零神宮のあやかし文化財レポート】幕間 あかり先生の歴史講座 〜高野山のはなし〜

――はい!皆さんごぶさたしています! 久しぶりの授業なのですが、やっぱり教科書は使いません! さて今日は、高野山について少しお話しましょう。和歌山の皆さんにはもしかするととっても身近かもしれませんが、わたしのような遠く離れた土地の者から見ると、もうめちゃくちゃにエキゾチックなのですよ。 高野山の成り立ちなんかは、いまさらわたしが言わなくても皆さんよくご存じだと思います。そこで今回は、昔の高野僧団の………………~続きを読む~
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【紀伊 零神宮のあやかし文化財レポート】幕間 あやかし文化財レポート・その5

今夜は特別オープンのbar暦に招待を受けている。 日数だけでいえばあれからそんなに経っているわけではないのに、めちゃくちゃ久しぶりな気がしてなにやら緊張してしまう。 普段は神社のカフェとして営業しているこのお店も、とっぷり日が暮れた後の姿は別の顔だ。 カリンコリンっとベルの音を立ててドアを押し開く。 「いらっしゃいませ」 涼やかな声音で迎えてくれるのは、ネクタイにウエストコートの女性バ………………~続きを読む~
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【紀伊 零神宮のあやかし文化財レポート】第8章 消える伊都の梵鐘。最凶のあやかし“一ツ蹈鞴”の胎動

梵鐘消失事件 不可解な事件が、新聞の地方欄やローカルTVを賑わせていた。 県北の伊都地方で梵鐘、つまり寺社の釣鐘が次々と消えたのだ。しかし鐘楼や鐘撞き堂から忽然と姿を消したそれらは、少し離れた水田の中や線路脇などといった脈絡のない場所で後に発見されている。 愉快犯、という説は根強い。だが、釣鐘というものはとんでもなく重い。口径が50cm位のものだと、その重量は実に100kg近くにもなるそうだ。単な………………~続きを読む~
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【紀伊 零神宮のあやかし文化財レポート】幕間 あやかし文化財レポート・その4

「伊緒さん。スモークチキンのサンドイッチ、めちゃくちゃおいしかったです!」 不動山からの帰りがけ、cafe暦に寄ったわたしはまっさきにお弁当のお礼を言った。 「そう。よかった」 店長代理の伊緒さんはにっこり笑い、目の前でコーヒーをドリップしてくれた。 「マスターは元気かなあ」 伊緒さんが言うマスターとは、もちろんユラさんのこと。ユラさんが天野へ発つまでの間、お店の仕事の引き継ぎでレクチ………………~続きを読む~
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【紀伊 零神宮のあやかし文化財レポート】第7章 不動山の巨石と一言主の約束。裏葛城修験の結界守

cafe暦の店長代理 ユラさんと天野へ行く少し前のこと。 cafe暦を閉めてほしくないばかりに、「ハローワークに求人出して腕のいい職人を探せ」と酔ってくだを巻いたわたしはけっこう責任を感じていた。 もちろんユラさん不在の間、マスターの代わりが務まる人を、ということだ。しかし、瀬乃神宮の結界守としての本質上、適格者は限られてくるのでおいそれと大々的な求人なんて出せるわけがない。 が、その辺りは………………~続きを読む~