小説 【紀伊 零神宮のあやかし文化財レポート】プロローグ ~境界をくぐるとき~ 夕暮れ時の橋を渡るときとか、列車で長いトンネルに入るときとか。 きんっ、と耳の奥に鍵をかけられたような音がして、少しの頭痛とともにふわっと身体が浮き上がるような感覚に襲われたことはないだろうか。 なんだか自分が自分ではないような、それまでいた時空からぽんっと放り出されて漂うかのような、不思議な感じ。 わたしは、こどもの頃からずっとそうだった。 橋を渡りきったりトン………………~続きを読む~ 小説未分類
小説 パンと龍 ~江川英龍の幕末麺麭レシピ~ 「かてェな」 その煎餅のようなもののあまりの固さに顔をしかめたのは、むしろ川原石でも平気で嚙み砕きそうな面構えの偉丈夫だ。太い首の筋が浮き彫りになり、戯言ではなく文字通り歯が立たない食い物であることがうかがえる。 「噛めませぬか」 その様子を注視していた向かいの男がぎょろりと大きな眼を巡らせ、言い放つ。 「丹田に気を下ろして噛まれませい。兜を断ち割る気構えにて」 兜を割るつもりで噛まね………………~続きを読む~ 小説未分類
歴史トピック 九郎義経の恋人、静御前の魂が舞う!能楽『二人静』を鑑賞して、圧巻のシンクロに号泣した話 人生初の能楽チケット購入! 前から興味はあったけど、なかなかハードルが高そうで踏み切れない……。 わたしにとってその一つが「能楽」の鑑賞です。 一度ちゃんと観てみたいな~、と思いつつ「やっぱ難しそう」と先延ばしにしていた能楽。 ところが、在所のすぐ近くの町で格安の能楽公演があったのです。 これはチャンス!とばかりに、人生初の能楽チケットを購入したのでした。 吉野・大淀町は能楽の聖………………~続きを読む~ 歴史トピック
歴史トピック 明智光秀公の墓所にもお参り! 苔むした石塔と巨樹の霊場、高野山「奥之院」を歩く 「日本国総菩提寺」、山上の聖地・高野山 「日本の総菩提寺」とも例えられる紀伊国・高野山。 標高約800mの山地におよそ120もの寺院がひしめく宗教都市としての威容を誇り、弘法大師・空海が開創した真言密教の総本山として知られています。 その中でも、空海がいまだ禅定を続けているという信仰のある「御廟」と、その参道沿いに約20万基もの石塔や供養塔が建ち並ぶ「奥之院」。 ここが高野山の信仰の中枢と………………~続きを読む~ 歴史トピック
歴史トピック 紀伊「丹鶴城」! 太平洋と熊野川に面した、水陸の要塞址をゆく 熊野速玉大社で有名、和歌山県新宮市の「新宮城」 お城といえば「天守閣」を備えた建築を想像しますが、構造物が失われて石垣のみが残っている城址も、実に風情があるものですね。 荒城にてかつての栄華に思いを馳せ、幾重もの櫓がそびえた往時を想像する――。 歴史のロマンを感じるひと時です。今回は熊野古道や熊野三山の速玉大社で有名な和歌山県新宮市の、「新宮城」についてのレポートです。 新宮城、またの名を「………………~続きを読む~ 歴史トピック
小説 【WEB小説】『柚子とさば骨』 さっきから幾度となく魚焼きグリルを覗いては、固唾をのんで焼き加減を見守っている。 約束の時間は十二時半だけど、彼のことだからおそらくマナーどおりに五分ほど遅れて訪いを告げるに違いない。 いまかいまかと焼き上がりが待たれるノルウェーさばを筆頭に、メニューはもう実にありふれた、といった感じのものをなるべく自然にみえるようチョイスした。ただしなるべく旬の野菜をつかって、ひと皿ひと皿はっきり違う味付けにすることを心………………~続きを読む~ 小説未分類
小説 【WEB小説】『フナダマ』 船内の小さな神棚に塩と洗米を供え、ゴロージは恭しく拍手を打った。 出港前に船のすべてを検め、最後に神棚に礼拝するのは、ゴロージが船頭になってから欠かさない習慣だった。 かつて、船を新造するとその帆柱の根元に古銭や近しい女の髪などを納め、船の魂の拠り所としたという。 「フナダマ」と呼ばれるそれは、船と船乗りたちを守る霊力をもつと信じられ、時代が変わったいまもゴロージは頑なにその伝統を守っていた。 こうして礼拝を………………~続きを読む~ 小説未分類
小説 第一献 とりあえずのビールと、コリコリ砂肝にんにく炒め ビールほど日本人に愛されているお酒はないかもしれない。 なぜなら「とりあえず」と言って注文するものなんて、ほかにはとんと聞かないから。「“生”でええやんな?」「“生”の人はー?」といえばもちろん生ビールのことで、最初の乾杯にはほぼこれ一択という雰囲気だ。 “ホット”といえばコーヒーを指すように、“生”といえばすなわちビール。「とりあえず生」の合言葉が、今夜も全国の酒場で繰り返されるだろう。 ぼくはあんまりお酒に強………………~続きを読む~ 小説未分類
小説 第二献 郷愁のウイスキーと、あつあつローストナッツ 焚き火のにおい、ってご存じでしょうか?木がはぜるときの、香ばしくどこか甘やかな煙のにおい。たぶん、これまでの人生でそう何度も体験したわけではないはずなのに、どうにもたまらなく懐かしいような、切なくあたたかいにおい。きっと焚き火には、遠い遠い祖先から受け継いだ、太古の記憶を呼び覚ます力があるのではないでしょうか。でも、実際に火を前にしているわけではないのに、そんな素敵な共感覚を起こしてくれる飲み物があるのです。 ………………~続きを読む~ 小説未分類
小説 第三献 あまくち日本酒と、お正月でもないのに伊達巻き 同じ原料からつくるのに、お酒ってどうしてこうも味わいが違うのだろうと、いつも不思議で仕方ない。 いや、正確に言うと原料が同じというのは使う素材の種類のことで、品種や銘柄によって特徴が違うことはわかる気がする。 ただ、単に「麦」といってもそれからビールやウイスキー、焼酎など全然風情の異なるお酒ができる、というのがとっても面白いのだ。 「酒」といえば日本語ではつまり日本酒のことを指す場合も多いけど、ぼ………………~続きを読む~ 小説未分類