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【紀伊 零神宮のあやかし文化財レポート】幕間 あやかし文化財レポート・その3

里へと下りるバスを待つ間、わたしはまたあの太鼓橋の上にいた。 たった7日。でも、確実にわたしの人生を変えた7日。 言葉にして表すのが容易ではない様々な思いも、やがて自分の中で整理できる日が来るという確信がある。 後ろの気配に、やっぱりという思いで振り返ると、ちとせさんが初めて会ったときのようにスマホで自撮りをしている。でも、画面に写るその顔は、なにやら晴れやかだった。 「鏡はね、もうやめたの………………~続きを読む~
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【紀伊 零神宮のあやかし文化財レポート】第6章 丹生都姫と八百比丘尼、裏天野の無陣流剣術

千鳥の盃 小糠雨があじさいを艶やかに濡らし、幾億もの水滴がその球に世界の形を映し出している。 樹々の間を縫って次から次に湧き立つ霧は白く清浄で、小さな龍に姿を変じてたゆたうかのようだ。 初夏とはいえ、雨に降り籠められたここは寒い。紀伊国一之宮、丹生都比売にうつひめ神社が鎮座する天野の里は。 小屋根の廂ひさしから無限に落下する雨垂れを、ただぼんやりと眺め続ける。その向こうには見事な半円を描いた………………~続きを読む~
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【紀伊 零神宮のあやかし文化財レポート】幕間 あかり先生の歴史講座 〜隅田党武士団のこと〜

はい。みなさん、ごきげんよう!教科書は――そう、今日も使いません! さてさて、今回は北条時頼とともに紀ノ川の大鯰と戦った、“隅田党”のお話です。 和歌山県橋本市の東、奈良県五條市との境あたりにその名も“隅田”という地域があります。在地の武士団を育んだ土地で、氏神の隅田八幡神社は国宝の「人物画像鏡」を伝えたことでも有名ですね。この銅鏡は現在、東京国立博物館で展示されています。 この地を拠点とした“隅………………~続きを読む~
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【紀伊 零神宮のあやかし文化財レポート】第4章 空海の大蛇封じと、裏高野の七口結界

裏高野 なんだか久しぶり、というよりはきっぱりとまだ2回目だ。「bar 暦」のカウンター席に着くのは。 なので白いシャツにネクタイ、そしてウエストコートというバーテンダー姿のユラさんを見るのも、これが2回目。まったくあたり前のことなのだけど、初めて彼女に会ったときのこの衣装への印象がすごく強くて、なんともいえない感慨のようなものを感じてしまう。 「あかり先生、なに飲まはる?」「うーん、何かさっぱり………………~続きを読む~
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【紀伊 零神宮のあやかし文化財レポート】幕間 あかり先生の歴史講座 〜陵山古墳・南紀重國のこと〜

はい。じゃあみなさん、教科書は閉じてくださいね! 今日は和歌山県橋本市の歴史に関わることを、2つ解説してみましょう。 まず1つめは「陵山みささぎやま古墳」。そう、庚申さんの使いのお猿さんと、たくさんの鬼たちが戦ったあの場所ですね。 円墳としては和歌山県下最大とされ、近畿地方でも出現期の横穴式石室をもつ、とーってもすごい遺跡です。 市の公式見解では5世紀末~6世紀はじめ頃の築造としていますけど………………~続きを読む~
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【紀伊 零神宮のあやかし文化財レポート】第3章 血縄の主の大鯰と、裏隅田一族の大宴会

cafe暦と二人の童子 和歌山に赴任してきた新米教師のわたしが住んでいるのは、県の最北東端あたりの町だ。 大阪府と奈良県に境を接するところで、橋本という古い町の南側、高野山の麓に開かれた小さな住宅地「伊都見台いとみだい」。この和歌山県北東地域の古名、「伊都郡」に因んだ名前だそうだ。 その山手側、ちょっと小高くなったところにゼロ神宮――、もとい「瀬乃神宮」が鎮座している。土地の子どもたちが瀬乃をゼロ………………~続きを読む~
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【紀伊 零神宮のあやかし文化財レポート】幕間 あやかし文化財レポート・その2

「りんごをむいてあげましょう」 そう言ってわたしは、わりといそいそと支度を始めた。この東堂医院は川のほとりにあり、病室からの眺めはとてもいい。河川敷はすでに葉桜となっているけど、やわらかな緑がなんとも心をなごませてくれる。 院長の東堂慈庵先生は、わたしが陵山古墳で鬼に襲われた後、瀬乃神宮で手当をしてくれたお爺ちゃんだ。 なんでも、「ご用達」なのだそうだ。 「こういうシーンって、マンガででった………………~続きを読む~
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【紀伊 零神宮のあやかし文化財レポート】第2章 影打・南紀重國の刀と由良さんの秘密

刀とあやかし文化財パトロール 本物の日本刀を手入れする様子を見るなんて、もちろん初めてのことだ。 刀そのものは、博物館の展示ケース越しには何度も目にしたことがある。けれど遮るものもなく眼前にあるそれは、工芸品というよりむしろ命を宿した何かのようだった。 緋袴の装束姿の由良さんが、端座して口に懐紙をくわえ、刀身全体に打ち粉を打っている。打ち粉とは、時代劇なんかで侍が刀をポンポンと叩いているあのぼんぼ………………~続きを読む~
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【紀伊 零神宮のあやかし文化財レポート】幕間 あやかし文化財レポート・その1

ピークを越えつつある桜が、風に吹かれて盛大な花吹雪を舞い上げた。 昼間の瀬乃神宮は夜とは打って変わって穏やかで、「bar 暦」もいまは「cafe 暦」の看板を出している。 先日と同じカウンターチェアに腰掛けたわたしの目の前で、由良さんがコーヒーをドリップしてくれている。芳しくふくよかな香りは、花散る午後にぴったりな気がする。 あの悪夢のような夜の出来事は、正直いってとても現実とは思えない。けれどわ………………~続きを読む~
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【紀伊 零神宮のあやかし文化財レポート】第1章 陵山古墳と蛇行剣の王

零神宮と麗人の酒家 夜の神社に来るのは初めてかもしれない。 4月とはいえ空気はしっとりと肌寒く、短い参道沿いの桜は故郷の雪と見紛う白さだ。 和歌山、といえば南国のイメージが強かったけど、山間のこの街は意外と気温が低い。 石灯籠には本物の蝋燭が点され、灯芯がチヂッと揺らめくたび周囲の闇が形を変える。 「神さんに挨拶だけ、しといたしかええわ」 ここを教えてくれた先輩先生のアドバイスに………………~続きを読む~