父、それは「壁」にして「目標」
漫画作品でも数多の名作が日々生み出されていますが、ストーリーの面白さはもちろん、キャラクターの造形が成否を左右することは論を待ちません。
なかでも主人公が男の子だったり、重要なポストにある男性だったりするファンタジーや活劇では、「父親」のキャラクターが大きな比重をもつことが少なくありません。
ある時は立ちはだかる「壁」として、そして長い目で見れば超えるべき「目標」として、父親はそこに存在感を放ちます。
今回は、漫画作品の中でちょっとニッチだけれどカッコいい、そんなお父さんキャラ5選を紹介したいと思います!
※以下、一部ネタバレ注意
「石神 百夜(いしがみ びゃくや)」from『Dr.STONE』
週間少年ジャンプで連載中の『Dr.STONE』。
謎の石化光線により、人類のほとんどが石像になってしまった世界。
3700年の後に石化から復活した「石神 千空(いしがみ せんくう)」は、科学の知識を駆使して石器時代から文明を再生させる試みに着手する――。
主人公、千空のお父さんが「石神 百夜」です。
百夜の職業は宇宙飛行士で、地球上で石化光線が放たれた瞬間は5人の仲間たちと共に国際宇宙ステーションにいたため助かりました。
人類救出のため地球に降下し、やがて新たな村の始祖となります。
基本的に陽気なムードメーカーで、突出した能力があるわけではありませんが苦境でも決して諦めず、強い精神力を持ったタフで朗らかな大人の男といった感じです。
この人のカッコよさは揺るぎない「信じる心」。
いつか息子の千空が目を覚ますことを疑わず、来るべき人類復活の日を見据えて科学知識や稀少鉱物の伝承・採集に生涯を捧げます。
石化を免れた6人の宇宙飛行士のなかでは最も長命でしたが、千空たちのためにプラチナを川で採集し続けているうちに寿命を迎えました。
とても意外な方法で自分たちの肉声を保存し、3700年後の千空に託したシーンは涙。
文句なくカッコイイお父さんです。
「竜騎将 バラン」from『ダイの大冒険』
ドラゴンクエストの外伝として大成功した『ダイの大冒険』。
主人公の少年「ダイ」の生き別れの父親が「バラン」です。
バランは物語中で一世代にただ一人しか存在しない「竜の騎士」と呼ばれる種族で、神・魔物・人間それぞれを調停し、滅する力を持つとされます。
ところがバランは人間の女性と恋に落ち、やがてダイが誕生。
しかし人間の迫害により最愛の妻を失ったことで、世界そのものに絶望します。
バランは大魔王からの誘いを受けて魔王軍の一翼を担い、人間たちと対峙します。
しかし、生き別れた我が子との再会がバランの心に変化を与え、人間性を徐々に取り戻していきます。
主人公の前に圧倒的な「壁」として存在するタイプの父親像ですが、親子の情がそれを上回る描写には感涙。
息子と共闘シーンは最高の胸熱展開でした!
「不破 現(ふわ うつつ)」from『修羅の門 第弐門』
千年続く古武術流派、「陸奥圓明流」継承者「陸奥 九十九(むつ つくも)」の闘いを描いた格闘漫画の金字塔、『修羅の門』の続編です。
強敵との死闘の末、記憶の大部分を失った九十九の前に現れた不思議な中年男。
やがて九十九は導かれるように現代格闘技のリングに上がり、少しずつ記憶を取り戻していきます。
この作品で一貫していたのは、主人公の遣う技がスポーツでも格闘技でもなく、純粋に人を倒すために練り上げられた「古武術」だということ。
九十九は圓明流が最強であることを証明し、その歴史を自分の代で終わらせることを願って世界中を旅します。
九十九の前に姿を見せた中年男は「山田」と仮名を名乗り、飄々とした態度と得体のしれない交渉力で次々とマッチメイクを行っていきます。
しかし、彼こそが400年前に陸奥宗家から分かれ、陸奥圓明流を仮想敵としてきた「不破圓明流」の遣い手にして、九十九の実の父親だったのです。
どちらの圓明流も、ただ一人の継承者以外はそれぞれ「陸奥」「不破」を名乗ることはできません。
不破圓明流の継承者ではなかった山田(仮名)は自身でも「不破じゃない」と言っていますが、若かりし頃に一度だけ「不破 現(ふわ うつつ)」と名乗って闘ったことがありました。
それが九十九の母親「静流(しずる)」と結ばれる契機となりましたが、これは本編ではなく外伝『修羅の刻』でのお話。
現は物語終盤、記憶を取り戻した九十九がライバルと最後の勝負を行う際の稽古相手を務めます。
彼が実の父親だとは知らない九十九ですが、現の技に亡くなった兄の姿を重ねます。
拳と拳で言葉よりも雄弁な会話を行う親子の姿。
命を投げ出す技を発動させる九十九に「やめろ!」と叫ぶ現の、父親としての顔が心に残りました。
「東堂 国彦(とうどう くにひこ)」from『六三四の剣』
剣道漫画の伝説的名作『六三四の剣』。
親子二代にわたる好敵手のお話でもありますが、主人公である六三四(むさし)の父「夏木 栄一郎」のライバルが「東堂 国彦(とうどう くにひこ)」です。
かつて史上最年少で全日本選手権を制した後、一線を退いていた東堂ですが栄一郎との決戦のため公の場に姿を現します。
強烈な突きで栄一郎を圧倒する東堂。
しかし執念の追撃で栄一郎は東堂を降し、決勝も制して優勝します。
ところが東堂の突きを受けた時の傷が元で、栄一郎は優勝後に昏倒。
そのまま帰らぬ人となってしましまいます。
父の死因を問い詰める六三四に対し「私が殺した」と明言。
踵を返した東堂が涙を流していたことを知らない六三四は、彼への復讐を胸に成長します。
長じた六三四は東堂への誤解が解け、尊敬する剣士の一人として接するようになりますが、彼の一人息子「東堂 修羅(とうどう しゅら)」とのよきライバル関係は続きます。
「鬼」と呼ばれるほど冷徹な印象を与える東堂ですが、その実は愛情深いのに感情表現が苦手な、不器用でストイックすぎる人間なのでした。
六三四の憎しみを自分に向けさせ、生涯栄一郎と闘わなくてはならないと言い切った凄味に、復讐の心は氷解していきます。
不治の病におかされた晩年、木刀を用いての息子との鬼気迫る仕合は鳥肌ものです。
若い世代に剣の凄まじさを印象付けた、「剣鬼」と呼ぶに相応しい父親キャラでしょう。
「バルド・ローエン」from『辺境の老騎士』
「小説家になろう」から発し、コミカライズも好評な硬派ファンタジーの傑作。
クラシックになることを約束された作品ではないでしょうか。
骨太で重厚な中世ヨーロッパ風の世界観に、主人公が死に場所を求めて旅する老騎士という渋さがたまりません。
作中では架空ながらも実においしそうな料理がたくさん出てくるのも、大きな魅力の一つです。
老騎士といいながらも、主人公のバルドは圧倒的なパワータイプの戦士。
体力の衰えを長きにわたる戦闘の経験値と、生に執着しない捨て身の気構えで補って闘います。
自身で望まないにもかかわらず、次々と事件に巻き込まれては老若男女を問わず多くの人魅了していきます。
その人柄は、人間以外の種族の人々にも認められ、やがて世界の謎に迫る悠久の陰謀を打ち砕く、壮大な冒険を果たします。
「老後」からが最大の冒険という異色作ですが、バルドのもつ父性のようなものが温かく人々の心に沁み込んでいく過程は微笑ましいものがあります。
生涯妻を娶らなかったバルドですが、最後の最後で正真正銘の父親に……。
詳しくはぜひ本編をご覧ください!
三條 すずしろ・記
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