大好きな執筆……でも、疲れてしまうときもある
普段は仕事をしていて、空いた時間を利用してコツコツ小説を書く。
文学賞に応募したり、投稿サイトに発表したり、あるいは電子や紙で自ら出版したり……。
わたしもそんな物書きの一人で、素晴らしい楽しみに出あえたものだなあ、と日々感謝しています。
紙とペンさえあれば小説は書けますが、いまやスマホやパソコンで創作はより身近なものとなりました。
また、自身の頭の中で無限の物語を紡げるため、いかなるときでも退屈するということのない取り組みでもあります。
ところが、そんな楽しい小説書きでも、時折どうしようもなく疲れてしまうことがないでしょうか?
誰に頼まれたわけでもない、自ら好んでしていることなのに、心身が擦り切れてしまったような深い疲労に苛まれる……。
仕事でしているわけではないけれど、「趣味」と割り切るにはもう少し切実な行為。
小説を書くことを、そのように思っている人ほど陥りやすい感覚ではないでしょうか。
そうです。
小説を書くことは、体力と精神力を激しく消耗し、もっといえば魂を削って打ち込むような過酷なことなのです。
ちょっと大げさに感じるかもしれませんが、物語を紡ぐのはそれくらい真剣なことなのだとわたしは信じています。
さればこそ、ずっと書き続けることはとても難しく、壁にぶち当たるようにして筆が進まなくなることがあるのも当然です。
では、そんな時にはどうすればいいのか。
答えは「気分転換」をすることです。
もちろん対応は人それぞれで、絶対に正しい方法などは存在していません。
ですが、疲れを取り、目先を変え、リフレッシュする。
それにより、次の一歩を踏み出す力を蓄えるのは、創作活動に限らず普段の生活や仕事でも同じく有効な手段です。
このコラムでは、わたしが「ちょっと疲れちゃったかなあ……」と感じたときに試している、気分転換の方法5種についてご紹介したいと思います。
1.原稿に向かうのをすっぱりやめる
簡単にこれができるのなら苦労はしない!という声が聞こえてきそうですが、わたしは書けなくなったときは無理してでも(笑)原稿に向かうのをやめるようにしています。
生みの苦しみを経て出てくる文章も確かにあるのですが、わたしは長時間机に向かって何かが「降りてくる」のを待つのはやめにしています。
なぜなら、そうした時間が少なからぬダメージを心身に与えることを体感しているからです。
本業のお仕事もあるでしょう。家族と過ごす時間もいるでしょう。
肉体的な疲労だけならともかく、筆が止まってしまってこれ以上書き進めることにストレスを感じるようなら、すっぱり原稿と距離を置きます。
心身ともに健康で、生活に必要なお仕事をしっかり全うしてこその創作活動です。
心配しなくても、そのうち必ずアイディアが湧いてきて、書きたくて書きたくて仕方ない状態になると思います(笑)
2.身体を動かす娯楽をする
手書きにしろパソコンにしろ、興が乗ってきたときのご自身の執筆中の姿勢を、一度チェックしてみてください。
いかがでしょうか?
前のめりになって、すごい猫背になってはいませんか?
長時間座りっぱなしで、足がしびれたりむくんだりしていませんか?
いうまでもなく、これらの姿勢や体勢は血流を阻害するため、とても身体によくないことが知られています。また、前傾姿勢が続くと胸郭が圧迫されて呼吸が浅くなり、自律神経系に悪影響を与えることになりかねません。
これでは、物理的に執筆に行き詰まってしまっても無理はありませんよね。
そんなときわたしは、できるだけ身体を動かす娯楽をするようにしています。
娯楽、と言い切れるかわかりませんが、わたしの場合は「登山」と「ウォーキング」に出かけるのがいちばん性に合っているようです。
どちらもひたすら歩くだけ、というシンプルなものですが、有酸素運動であるため呼吸を正常にし血行を改善する効果があります。
つまり、執筆で凝り固まった疲れを洗い出すような「アクティブレスト」となり、とってもスッキリした気分になります。
また、わたしの場合は歩いている最中に限って色々なアイディアが湧きやすく、直接創作のヒントを得られることも多いのです。
「歩く」というゆったりしたスピードだと、季節の変化や細かい景色にも目がいきやすく、思わぬ発見があるのも楽しいところです。
なるべく姿勢にも気を付けて、縮こまってしまった身体をほぐして伸びやかにするよう意識して歩くと、やがて自然に「書きたい」と思うのですから不思議です。
3.古典的な小説作品を読んでみる
自分の作品作りに行き詰まったときに、参考に同時代の 他の作品を読んでみる……というのは、わたしにとってはなぜか逆効果でした。
なんというか、自分にないものばかりが浮き彫りになって、プレッシャーを感じてしまいなかなか作品を純粋に楽しめない感じがするのです。
そんなときわたしは、古い時代の小説が無性に恋しくなります。
現代文学とはまったく異なるレトロで格調高い文体と、一行に込められた密度の高さに、
「小説っていいなあ」
と思いを新たにできる気がするからです。
わたしのお気に入りは、
森鴎外『舞姫』
堀辰雄『麦藁帽子』
内田百閒『餓鬼道肴蔬目録』
です。
お試しあれ。
4.マンガを読む
特に小説を書くようになってからですが、ものすごくマンガを読むようになりました。
文章だけ、という制限のある小説に対して「画」でも視覚に訴えるマンガ作品。
ストーリー展開やキャラクター設定でも素晴らしい作品が数多く、小説を書くうえでとても参考になると思います。
インパクトのある一コマを見ると、これを自分だったら果たして文章でどう表現できるだろうか……などと、ついつい考えてしまいます。
マンガで癒されつつも、いつの間にかふつふつと創作意欲が湧いてくる、という感じでしょうか。
5.アニメを観る
マンガを読むことにももちろん通じるのですが、できれば気に入ったマンガ作品をアニメ化したものを鑑賞するようにしています。
それというのも、自分が小説を書くときのイメージは「画」というよりも「映像」が浮かんでくるため、アニメから受ける印象の方が執筆時の感覚に近い面があるからです。
また、原作マンガとエピソードを比較すると、映像としてより辻褄が合うように巧みな改編がされていることも多く、そういった細かいストーリー構成の仕方も小説の参考になります。
文章だけで読み手にどれだけ鮮明なイメージを持ってもらえるか、というのはまさに肝だと思うので、映像作品の作り方は実に勉強になるものと感じています。
完全に受け身で楽しめるのも映像の楽なところで、お菓子でも食べながらリラックスして鑑賞していると、観終わったときには「よし、書こうか!」という昂揚感が生まれることもしばしばです。
行き詰まったとき、それは新たな発見のチャンス!
例えば、24時間365日を執筆にあてられる自由を手にしたとしましょう。
これならすごい名作が書ける……と思いたいですが、実際にはどうでしょうか。
人間、なかなかそうは思い通りにはいかないのではないかと思います。
むしろ、制限のある中で少しずつ時間を捻出し、物語を紡いでいくという体験はとても尊いもののように感じられます。
仕事をしながら、普段の生活に追われながら、そんな中での執筆は行き詰まって当たり前、と大きく構えるくらいでちょうどよいのではないでしょうか。
そんな風に壁にあたったときこそ、実は新たな発見をするチャンスでもあります。
これは何も、小説の執筆に限ったことではありません。
他の創作活動や趣味、仕事や人間関係など幅広い事物において当てはまることかと思います。
もしいま、執筆で悩んで疲れを感じている作家仲間の方がこの記事を読んでくださっているなら、ぜひ一度上記の方法を試してみてください。
きっとまた、創作する力を蓄える時間となると信じています。
三條すずしろ・記
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