新天地を求めての、幾世代にもわたる星間飛行
今回は王道SFながら独特の世界観が心をとらえて離さない、弐瓶勉さんの『シドニアの騎士』をご紹介します。
滅亡した地球を後にした人類。
「播種船シドニア」という巨大な宇宙船で新天地を目指し航行しますが、そこには「ガウナ」と呼ばれる胞子状の生物が敵として散在しています。
人型や船型など、さまざまな姿態に変化する強力なガウナに対抗できるのは、人型兵器「衛人(モリト)」が持つ「カビザシ」という槍だけです。
物語は、かつてエースパイロットとして名を馳せた男のクローンである「谷風長道(たにかぜながて)」を中心に進みます。
都市のシステムから隔離して密かに育てられた長道は、社会にとまどいながらも多くの仲間たちと協力して、ガウナとの戦いに終止符を打つべく旧式の名機「継衛(ツグモリ)」を駆り、戦場へと向かいます。
サイバーパンクと下町風情の、不思議な融合
お話自体はよくあるタイプのSFなのですが、サイバーパンクと下町風情が融合したような不思議な情緒が特徴となっています。
シドニアの中には都市があるのですが、まるで昭和の時代を思わせるような日本家屋が建っていたり、時代を経た機械にしめ縄が張ってあったり、高層階に樹木が育っていて神社のようになっていたりと、いっそノスタルジックといえるような情景が広がります。
また、高度に科学が発達した世界であり、シドニア人は光合成によってエネルギー産生ができるように遺伝子操作を加えられています。
ところが主人公の長道にはその機能がないため、たくさん食事をとらなければならず、おいしそうにご飯をほおばるシーンは名物的な見どころのひとつとなっています。
また、男でも女でもない「中性」という性別の人物や、不老不死の幹部船員たち、サイボーグやアンドロイド等々、さまざまな生命の在り方が共存しているのも特徴です。
カッコよすぎないメカが、逆にカッコいい!
主役メカである「衛人(モリト)」は、細身のフォルムが印象的な人型ロボです。
作者の弐瓶勉さんが、スクラッチで実際に立体に起こしてから描いたという、こだわりのデザインで、直線的な装甲が合わさったシンプルな見た目をしています。
ところが、このカッコよすぎない感じがたまらなくカッコよくて、物語なかばまでは敵に決定打を与え得る武器が「槍」のみという制約も、戦闘シーンを盛り上げるスパイスとなっています。
主人公機は、長道のオリジナルである伝説のエースパイロット・斎藤ヒロキが駆っていたもので、旧式の名機という設定です。
新型と比べて操縦にはオート化されていない部分が多く、人間の技によるところが大きいという、乗り手を選ぶ機体とされています。
量産機は単に「18式(イチハチシキ)」などと呼ばれるのに対し、長道の17式は特別に「継衛(ツグモリ)」というコードネームで呼ばれ、シドニアの人々にとって特別な存在であることが共用されています。
まさかの人外巨大ヒロインが、なぜか可愛い!
『シドニアの騎士』には女性・中性・クローン・サイボーグ・アンドロイド等々、さまざまな出自の魅力的なヒロインが登場しますが、なかでも度肝を抜いたのが「白羽衣(しらうい)つむぎ」というキャラクターです。
なんと、彼女は敵であるガウナの細胞を利用して造られた、巨大な生物兵器なのです。
体長は人型ロボの衛人と同じくらいで、人間とのコミュニケーションは胸から伸びる触手状の端末で行います。
つむぎはドレスに甲冑をまとったかのようないかめしい姿なのですが、とにかく素晴らしく「いい子」なのです。
無邪気で好奇心旺盛、少女のような心をもちつつ、シドニアを守ることを至上の任務とし、いかなる自己犠牲もいとわず勇敢に闘います。
そんななか、主人公の長道と徐々に心が通い合っていくさまは、むしろ涙ぐましくさえあります。
さまざまな見どころのある『シドニアの騎士』ですが、究極のところはこのつむぎの物語といっても過言ではないかもしれません。
彼女のヒロインとしての、驚愕のラストをぜひご覧いただきたいと思います。
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