鬼滅の刃で剣士たちが遣う”全集中の呼吸”
不死身の鬼に対して、生身のままで挑み続ける『鬼滅の刃』の剣士たち。
彼ら・彼女らはそのために、”全集中の呼吸”と呼ばれる独特の身体操作法を体得します。
劇中では、血流が早くなり大量の酸素を取り込むことで鬼のように肉体が強化される、といった説明がされています。
しかし、本当に呼吸の仕方を工夫するだけでそれほどまでに身体能力がアップするのでしょうか?
そこで今回は、同じく呼吸法を重視する武道での実例をみながら、”全集中の呼吸”の効果について考察してみたいと思います!
武道でも重要となる呼吸法
スポーツやヨガなどでも同様ですが、今回は武道における呼吸の重要性を例にしましょう。
当然のことですが、私たちの生命活動の基礎のひとつに呼吸があります。
空気(酸素)を吸って吐くという動作が命を支えており、運動の量や強度が高まるほど大量の空気が必要となりますね。
いわば空気はエネルギーのようなものでもあり、戦闘中に適切に呼吸を行えるかどうかは勝負の明暗を分けるといっても過言ではありません。
また、人間は息を「吸う瞬間」にはまったくの無防備となります。
剣道などではこれを、心身が動かなくなる「居着き」のひとつに数えています。
したがって、無防備になる吸気の時間をどれだけ短縮するか、効率よく呼吸を行って隙を見せずに長く戦うかが重要となってきます。
呼吸がもたらす効果とは
次に、呼吸が心身にもたらす具体的な効果について代表的な例を挙げてみましょう。
呼気は「発声」とも直接通じるところがあり、気合をかけて技を繰り出すこととも大きく関連しています。
以下に、呼吸によってアップする5つのポイントを解説します。
筋力のアップ
息をするということは、肺を動かすということ。
肺を動かすというのは、横隔膜という筋肉を動かすこと。
特に息を吐くことは筋肉をぎゅっと締めることにつながり、意識的に動作と呼気を合わせると筋力アップを体感することができます。
重量挙げの選手が声を出したり、あるいは私たちも重い荷物を持ち上げるとき無意識に「どっこいせ!」などと掛け声をかけるのも、呼吸によって筋肉の力を引き出している代表例といえるでしょう。
攻撃力のアップ
上記の筋力アップに直結することですが、呼吸によって攻撃力をアップさせることも可能です。
テニスの選手がラケットを振りぬく瞬間や、空手家が打撃の瞬間に発声するのも同様と考えられます。
必要なタイミングで、必要な量の呼吸を爆発的に行うことで、信じられないような力が出ます。
鬼滅の剣士たちもおそらく、斬撃の瞬間には激しい呼気をともなう身体操作をしていると考えられるでしょう。
防御力のアップ
呼吸の力は攻撃だけではなく、防御にも使えます。
一度、腹筋に意識を集中して力を込めてみてください。
固くなって、衝撃を跳ね返しそうですね。
では、その状態からさらに息を吐き切って、もっと腹筋に力を入れてみてください。
どうでしょうか。
おなかの筋肉の繊維が、ぎゅうーっと締まっていくのを感じないでしょうか。
この通り、筋肉は呼気とともに収縮して、打撃に対する防御力を高めます。
これは表層の腹筋だけではなく、横隔膜というインナーマッスルが緊縮されることにもよっています。
打撃を受けそうになった瞬間、こうした要領で自身の肉体の防御力をアップさせるのも重要な身体操作法のひとつです。
継戦能力のアップ
スポーツの試合でもそうですが、勝負が長引いたときに明暗を分けるのが持久力です。
フィジカルな意味でのスタミナも重要ですが、そのためにも呼吸は大きな役割を果たします。
動作が激しくなったり戦う時間が長くなったりすると疲労とともに息が上がり、「肩で息をする」という状態になります。
先述の通り、人間は息を吸う瞬間が致命的な隙となるため、安定した呼吸を行うことは戦闘持続時間、つまり継戦能力のアップにつながります。
禅や武道では、素早く大量に吸気を行い、ゆっくりと時間をかけて吐いていくのがポイントとされています。
集中力のアップ
スポーツの勝負でもアドレナリンが出て興奮するくらいですから、命のかかった戦いであればおそらくなおのことでしょう。
しかし、古来の達人はいずれも冷静な判断力を保つことで死地をくぐりぬけてきたといいます。
腹式呼吸に代表される呼吸法では副交感神経を働かせ、リラックス状態に導くことが知られています。
これは自らの意識で唯一コントロールできる生理機能が呼吸であり、本来これを司るのが自律神経であるためです。
リラックスのために深呼吸をするというのも同様の原理で、呼吸を極めた武道の達人は「相手の動きがよく見える」と表現されることがあります。
したがって戦局を冷静に判断するためにも、鬼滅の剣士たちも平常心を保つ呼吸の効果を最大限に活用していると考えられるでしょう。
全集中の呼吸=空手のサンチンに近い?
ここで、全集中の呼吸にもっとも近い武道の呼吸例を挙げるとすれば、それは空手の「サンチン(三戦)」ではないかと考えます。
これは那覇手系・剛柔流系で有名な鍛錬法とされ、全身の筋肉を締めて呼気とともに突きを繰り返すというものです。
この時の呼吸を逆腹式と説明されることがありますが正確ではなく、実際には「腹圧をかけたままの横隔膜呼吸」と表現するのが近いかもしれません。
それというのも、サンチンでは息を吸う瞬間にも身体に緩みがなく、全身の筋肉を締めて防御を固めたまま動作・攻撃を行える身体操法であるためです。
鬼滅の剣士たちは全集中の呼吸を日常的に行う「常中」で、このような状態を維持していると考えられないでしょうか。
爆発的な力を出し、長く戦い続けるための呼吸法
武道や格闘技でいえば、原則的に攻撃が強ければ強いほど、そのために呼吸の溜めを必要とします。
したがって、瞬時に爆発的な力を出すためにも呼吸が整っていることが肝要となります。
それと同時に、長く安定して戦うためにも息が切れないよう呼吸を続けることも重要で、これらの要件を満たした身体操法こそが「全集中の呼吸」であると考えられるでしょう。
帯刀 古禄・記
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