上田 聡子(ほしちか)とは
三條の好きな作家さん、創作を行ううえで大きな影響を受けた作家さん、その一人が「上田 聡子(ほしちか)」先生です。
noteやカクヨムなどのWEB媒体、文学フリマ、児童文学誌等々、さまざまな媒体で活躍する上田 聡子さん。
小説やエッセイ だけでなく、短歌も詠まれています。
わたしが知ったのは、カクヨムで拙作にレビューとコメントを頂いたことがきっかけでした。
noteのプロフィールページより( https://note.mu/hoshichika )
日々のささいなことに光をあてて、温度のある言葉をつづりたい。
そんな言葉通りの、やわらかくあたたかな作品の数々。
そのうち、5作をご紹介します。
『洋食屋ななかまど物語』
小さな洋食屋さん「ななかまど」の一人娘、千夏。
家業を手伝いながら大学に通う彼女には、密かに思いを寄せる人がいました。
ところが、父の願いは腕のいい料理人を婿に迎えて、ななかまどを継いでもらうこと――。
千夏の想い人は、料理人とは縁遠い世界の住人でした。
しかしやがて、後継者候補の料理人がななかまどに入店し、彼は強引ながらも本気のアプローチを千夏に仕掛けて……。
選択を迫られること、それも人生を左右するような。
その試練に、千夏はどう向き合うのか。
誰にでも一度は訪れるであろうそんな壁ですが、それぞれの真っすぐな思いを心から応援したくなす。
ややツンデレな千夏の態度も愛らしい、さわやかで甘酸っぱい読後感の物語です。
『シンデレラの侍女』
親友の恋路を見守る優架。
クラスで人気の男子生徒への、親友の恋心に気付きながらも、ライバルが多すぎることから成就には悲観的だった。
ところが、事態は優架の思わぬ方へと動いていって……。
意味深なタイトルが示す通り、「主人公にならない子」が主人公、という徹底した視点が心に残る掌編。
最後の最後まで、結末を知らない物語のその後に思いを馳せる姿に、「これは自分だ」と思ったのはわたしだけではないでしょう。
『この夏っきり』
この年いっぱいで店をたたむことを決めた、実家の和菓子舗。
帰省の折にそれを聞いた「私」は、大好きだった葛まんじゅうを口にしながら、店が象徴する両親の歴史に思いを馳せる。
家業を継ぐことを選ばなかったことへの感傷を残しつつも、優しい気持ちで今へとつながる絆を再確認する――。
「家業」と「自分の道」という対比は、上田 聡子作品で印象的なテーマの一つだと感じています。
わたし自身も父の跡を継がない、という道を選んだので、何ということのない会話や情景の一つ一つが心に沁みました。
「この夏」で最後になる“葛まんじゅう”の味わいとともに、暑い季節に読みたい一遍です。
『朝、一緒にヨーグルトを』
好きな人と何気ない日常を過ごす喜び、そしてその日々がずっと続いていくことを願い、証を立てることの喜び。
そんな幸福を描いた、ほのかで優しい掌編です。
この作品は「meiji×note」のハッシュタグ企画、「#ヨーグルトのある食卓」で「入賞」5作のひとつに選ばれたものです。
育った環境も違い、日々の習慣も違う二人が、ともに歩むにつれてお互いにどれだけ分かちがたくなるのか。
「ヨーグルト」という題を巧みに、しかしさりげなく利かせた逸品です。
ああ、さっそくヨーグルトが食べたくなってきた……。
『言の葉の四季』
上田 聡子作品84編をおさめた、電子版の短編集。
日常のこと、ありふれていても大切な人生のこと、すぐ足元にある愛おしい種々のことを、やわらかく口どけのいい文体で綴っています。
作家の力がもっとも如実に表れるという短編ですが、むずかしいことは抜きにして色んな味を少しずつ楽しめる懐石料理のようで、わたしは短編集が大好きです。
この作品を読みながら、ずっと脳裏に浮かんでいたのが小さな箱に詰められた色とりどりの「金平糖」のイメージでした。
すると何としたことか、まとめ的なメッセージを感じさせる最後の掌編でのキーワードが「金平糖」だったのです。
そんな共感覚を起こさせる短編集。
いま一番、紙の本でほしい作品です。
「上田 聡子(ほしちか)」作品の魅力
上田 聡子作品から受けた印象を、なんとか一言で表すとすれば、それは「色彩」でしょうか。
それも決して鮮烈ではなくて、何気なくても心のどこか深いところに大切にしまわれるような、淡くやさしい色合いです。
日々が当たり前に過ぎていくことの幸福を、あらためて気付かせてくれるような作品の数々。
きっと、たくさんの人の心に沁み入るのではないでしょうか。
三條すずしろ・記
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