隠された金塊を求める、アイヌの少女と元兵士の冒険
今回はわたしの愛してやまない、北海道を舞台にした漫画作品、野田サトルさんの『ゴールデンカムイ』をご紹介します。
物語は明治時代の北海道。
かつて日露戦争に従軍し、「不死身の杉元」と呼ばれた杉元佐一は幼馴染の眼病を治すため、ゴールドラッシュの北海道へやってきます。
ところがそこで、アイヌの人たちが独立運動のために埋蔵したという金塊の噂を耳にします。
その隠し場所の暗号は、網走から脱獄した囚人たちの体に刺青として刻まれている――。
半信半疑の杉元ですが、その話を聞かせてくれた男の体にはなんとその刺青が。
やがて窮地に陥った杉元を、アイヌの少女「アシリパ」が助けたことで運命は動き出します。
アシリパは、金塊を隠し囚人に暗号の刺青を彫った「のっぺらぼう」の娘だったのです。
杉元は幼馴染のため。
アシリパは失踪した父に会うため。
共通の目的をもった二人は相棒として手を組み、隠された金塊の謎に迫っていくのです。
こだわりのアイヌ語と文化の描写
本作の最大の見どころのひとつは、徹底したアイヌ民族の「言葉」と「文化」への描写です。
アイヌは文字をもたない民族のため、アイヌ語の表記はアルファベットかカタカナで行うのが通例です。
しかし学派や方法によって色々な表記法があり、やや混乱を招いています。
本作ではアイヌ語研究の第一人者として知られる千葉大学の「中川裕」教授がアイヌ語の監修を行っています。
文化面でもアドバイザーの一人として参画しており、作品では料理や狩猟法、儀式や伝承や信仰観などさまざまなアイヌ文化が紹介されています。
アニメ版ではアイヌ語の発音にも細かく配慮されており、たとえば「神」をあらわす「カムイ」という言葉も正式なイントネーションが使われます。
ついつい「ハワイ」と同じ発音をしてしまいますが実際には「寒い」に似た音節であり、第2音節のアクセントが多いアイヌ語を正確に表現しています。
※なお、アイヌ語のカタカナ表記では小さい「プ」「ク」「ト」なども使いますが、このコラムではすべて全角の大文字としていますのでご了承ください。
個性的すぎるキャラクターたちと明治期の北海道
杉元とアシリパの旅には、あまりにも個性的な仲間たちが合流していきます。
実は函館戦争を生き延びて収監されていた「土方歳三」や、脱獄王の「白石由竹」、アシリパの父の盟友「キロランケ」や脱走兵のスナイパー「尾形百之助」等々、同じく金塊を目的とした敵か味方か判然としない男たちです。
また、陸軍内の反乱分子である「鶴見中尉」の一派も金塊を狙っており、杉元たちと対立したり、時には協力したりしながら物語は複雑に進んでいきます。
明治時代の北海道の様子が丹念に描かれ、広大な森林や原野を旅するアウトローたちの物語は、まるで西部劇を見ているかのような壮大さです。
当時の国際情勢や軍人の置かれた立場、道具や習慣等々、近代日本の歴史漫画としても見ごたえがありますよ。
知られざる歴史への、扉のひとつとなる作品
明治時代の北海道を舞台にした漫画、というだけでもかなり新しいのではないかと感じました。
いまだ近世の面影を残し、先住民のアイヌの人たちも多く、なおかつ各国からの移入者とロシア人もたくさん来ていた当時の北海道。
いろいろな意味でのフロンティアであり、和人が容易には入っていけない秘境でもあったはずです。
教科書にも詳しく載っていない知られざる北海道の歴史は、実に興味をかきたてられることばかりです。
道の歴史への扉を開くひとつのきっかけとしても、とても意義深い作品だと思います。
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