宝石の生命と、月からの来襲者との戦い
今回は、友人からアニメ版を勧められてどっぷりはまってしまった、市川春子さんの『宝石の国』をご紹介します。
物語は人間が滅亡したはるか未来の世界。
登場する主なキャラクターたちは少女のような少年のような、中性的で美しい容姿をしています。
しかし、いずれも骨と肉を持った炭素生物ではなく、その本質は「宝石」という不思議な生命体なのです。
宝石たちは海に面した広い草原でコミューンをつくって共同生活をしていますが、常にある脅威に直面しています。
それは「月人(つきじん)」と呼ばれる、月からの謎の来襲者たちです。
月人は仏像の「菩薩」のような姿をしており、空を裂いて瑞雲とともに現れます。
その目的は宝石たちをさらって砕き、アクセサリーにすること。
物語の序盤ではそのように説明されています。
宝石たちは月人の襲来を察知すると刀剣を携え、敢然と立ち向かいます。
しかし、代々の宝石たちのなかには月人に敗れて砕け、矢尻などに使われてしまった者もまた多いのです。
物語の主人公は薄荷色の髪が特徴の「フォスフォフィライト」。
通称「フォス」です。
フォスは硬度がとても低く、わずかな衝撃でも割れてしまうため頻繁に接合治療の厄介になっています。
また、とても不器用で家事も戦闘も不得意なため、やがて世界の『博物誌』を編纂するよう命じられます。
しかし、このフォスこそが、後に宝石の生命と月人の秘密に大きく迫る重要な役回りを果たすことになるのです。
僧の出で立ちの「金剛先生」と宝石たちのくらし
宝石たちは「学校」と呼ばれる建物で、それぞれの役割を与えられながら共同生活を送っています。
服飾担当、武器製作担当、医療担当等々、そこにはさまざまな宝石たちがくらしています。
そんな宝石たちをまとめるのが、まるで僧侶のような出で立ちの「金剛」です。
宝石たちからは「先生」と呼ばれて慕われていますが、対月人の戦闘では圧倒的な力を発揮するちょっと怖い存在でもあります。
宝石たちに言葉や文化、そして日々の暮らしそのものを教えたのはこの金剛先生であり、とんでもなく長い時間を生きていることが示唆されています。
実はこの金剛先生の正体は、物語の核心に関わる重大な秘密を担っており、それが明らかになることで宝石たちの生き方に大きな影響を及ぼすことになっていくのです。
謎の「月人」たちとその目的
宝石たちの敵として登場する「月人」は、謎に満ちた存在です。
宝石をさらうことは分かっていますが、その具体的な目的や行動原理はなかなか明らかになりません。
刀剣で斬ると霧散するか、あるいは蓮根のような断面をさらして無数の矢を出すなど、不気味な雰囲気をもっています。
ですがやがて、フォスを中心に月人への研究を進めるため、月への関心を高めるグループができていきます。
そしてそこには、あまりにも意外な月人たちの真の目的が隠されていたのでした。
幻想的な、未知の生命の在り方
『宝石の国』を初めて目にしたとき、あまりにも独特な世界観にあたかも置き去りにされたかのような奇妙な感覚を覚えました。
しかし物語を読み進めるうち、我々人間が捉える視点とは異なる、「未知の生命の在り方」が丹念に描かれていると感じるようになりました。
そして、そんな宝石の生命たちも、自分たちが何者であるのか、その存在は何なのかを探求するようになっていきます。
意表をつく展開が次々と現れては深い余韻を残す『宝石の国』。
わたしもいま、続きが気になって仕方ない作品のひとつです。
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