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第三十二椀 昔懐かし「ナポリタン」。時のはざまに迷い込みます

 喫茶店とかカフェとかを「サテン」と呼ぶ人がめっきり少なくなったと、有識者たちが憂えているらしい。 ぼくもお得意先の方との打ち合わせで、 「どっか近くのサテンにでも行こうや」 と言われて途方に暮れたことがある。 サテンが「茶店」だと気付いたときにはすでに遅く、なんとなくラテン風の一杯飲み屋で見積もりをとったのはいい思い出だ。 それ以来、一定以上の世代のお客さんと外で打ち合わせをする際には、 「どうでしょう、近くのサ………………~続きを読む~
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第三十三椀 ほくほく「ミートコロッケ」。校則で禁止でも買い食いに最適です

 ぼくは中学から高校の途中まで剣道部に所属していた。 運動量が多く、激しく消耗するので部活の直後は水やスポーツドリンクしか受け付けず、夏場なんかは本当に死ぬかと思った。 両親が亡くなって部活はやめてしまったけれど、剣道そのものは楽しかった思い出ばかりだ。 運動後にちゃんと水分を補給しておくと、今度は帰り道の途中でものすごくおなかがすいてくる。 「おなかとせなかがぺったんこ」という格言通り、もう狂おしくカロリーを欲し………………~続きを読む~
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第三十四椀 皮がパリパリ「チキンステーキ」。”小悪魔風”がヒケツです

 男の子もお年頃を迎えると、いっちょまえに女の子の好みなんかがおぼろげに芽生えてきちゃったりして、たいへんなことになる。 気になる女の子についつい意地悪してしまう、という男の子もいるかと思うけど、言うまでもなく逆効果だ。 そういうことに気付くのは、迂闊にもだいぶんと大人になってからという場合も多いようで、意中の女性に対するアプローチというのはなかなか悩ましい問題なのだ。 ぼくの友人に、とにかく女性はほめるべきだとい………………~続きを読む~
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第三十五椀 ココロふるえる「オムライス」。こども味vs大人味の共演です

 伊緒さんはよく、 「晩ごはんはなにたべたいー?」 と聞いてくれる。  "カレー"とか"焼き魚"とかの具体的な料理名で希望することもあるけれど、実際には"何かこう、身体があったまるような"とか"さっぱりしつつもがっつりいけるような"などの曖昧なイメージを伝えてしまうことが多い。 それでも伊緒さんは、 「ようし、おっけい!」 と腕まくりをして、ショウガを隠し味にした豚汁や、たっぷりのおろしポン酢を添えたトンカツなどで………………~続きを読む~
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箸休め フルーツパフェと男と女。食べたくても恥じらったりもするのです

 伊緒さんは甘いものが大好きだ。 和菓子も洋菓子も喜んで食べるけれど、クリーム系のお菓子が好みのようだ。 どちらかというと男性に比べて、女性に甘党が多いように感じるのは、多分気のせいではないと思う。 最近でこそ「スイーツ男子」なる定義が浸透して、甘党の男性が大手を振るってお菓子を食べたりしているけれど、長らく「男が甘党とは恥」みたいな風潮がたしかにあった。 江戸時代には「いもたこなんきん」などと言って、ふんわり甘ー………………~続きを読む~
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第三十六椀 こっくり甘辛「カレイの煮付け」。白身と卵で二度おいしい

 もちろんお肉もお魚も好きなのだけど、さあ、どっちかひとつだけ選べ!と言われたら「お魚」と答えると思う。 お刺身よし、焼きよし煮付けよし、蒸そうが揚げようが、もうどう調理したっておいしい。 しかもものすごくたくさんの種類があって、ぜんぶ味が違うのも神秘的だ。 パリパリに揚げて頭からまるごと食べる小魚もおいしいし、とろりと脂の乗った大型魚のお刺身もこたえられない。 家族で毎日のように食卓を囲んだ、というわけではなかっ………………~続きを読む~
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第三十七椀 牛丼?カツ丼?玉子丼?どんぶりの王者と伊緒さんの苦悩

 わたしはこれまで、夫である人に対して意図的につくってこなかった料理があることを告白します。 けれど彼はその料理が大好きで、実はわたしにとっても特別な思い入れのあるメニューでもありました。 それでもなお、わたしは頑なに家庭でそれをつくることを拒みつづけてきたのです。 なぜか、と問われればわたしは口ごもってしまうかもしれません。 いくつかのそれらしい言い訳はできるでしょうが、その実態はかなりの面でわたし自身の情緒的な………………~続きを読む~
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第三十八椀 たかが、されどの「ゆでたまご」。伊緒さんとイースターの思い出

 伊緒さんはたまご好きだ。 オムレツとか茶碗蒸しとか、さまざまな卵料理ももちろん得意なのだけど、「たまご」そのものが好きなのだという。 かわいらしい楕円形の理由は、巣から転げ落ちないため。 その中身は世界で一番大きな単細胞。 そういったところが、いろんな方面から伊緒さんの琴線に触れているみたいだ。 それにたまごについては、彼女にとってたいへん思い出深いエピソードがあるという。 伊緒さんがこどもの頃、とても楽しみにし………………~続きを読む~
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第三十九椀 土曜のお昼の「ソース焼きそば」。かつて土曜は半ドンでした

 "半ドン"という言葉が通じるのは、もしかしてぼくたちの世代が最後なのかもしれない―――。 そう思ったのは会社に数年振りに新卒の人たちが入社してきて、研修の一部をぼくが担当したことに由来する。 「まあ、比較的年齢が近いだろう」くらいの理由で白羽の矢が立ったのだけど、どうしてなかなか、世代の違いを感じざるを得ない。 イチバンの要素はやっぱり言葉だ。 彼ら彼女らの言っていることが分からないのではなくて、こちらが使う言葉………………~続きを読む~
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第四十椀 デミ香る「ハヤシライス」。洋食界の裏ボスはこれできまり

 世の中にはよく似てるけど実はぜんぜん違う、というものが結構あるようだ。 たとえば、 「チーター」と「ヒョウ」「りんご」と「なし」「ゼロ戦」と「隼」  などがパッと思い付いた。 最後のはもちろん、歴史的にも有名な航空機なのだけど伊緒さんいわく、 「ゼロは海軍、隼は陸軍の戦闘機よ。よく似てるうえにエンジンも同じだったそうだから、混同してしまいそうね。そもそも両者の設計思想の違いは(以下略)」 だ、そうだ。………………~続きを読む~