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第四十七椀 皮も手づくり「もっちりギョーザ」。お部屋に初訪問って緊迫です

 初めて伊緒さんの部屋にお邪魔したとき、本当に緊張したのをよく覚えている。 その時はまだ正式にお付き合いしているわけではなくて、本とかマンガとかの貸し借りを通じてだいぶ仲良くなってきたかなあ、という程度の関係だった。 なので"伊緒さん"なんてなれなれしく呼べるはずもなく、旧姓である「上月(こうづき)さん」と呼んでいた。 珍しい苗字だし、字面がなんかかっこいいので彼女の雰囲気によく似合っていると思ったものだった。 彼………………~続きを読む~
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第四十八椀 ほっとする味、「厚揚げの炊いたん」。関西弁の不思議に迫ります

「ねえねえ晃くん!関西では煮物のこと"タイタン"って呼ぶってほんとう?」 伊緒さんが目をキラキラさせて質問してくる。 じつに曇りなきまなこだ。 だが、曇りなきがゆえにこれは少々面倒な問題でもある。 伊緒さんが想像している"タイタン"というのはつまり、土星の衛星だったり"チタン"の語源だったりする古代ギリシアの神々のことだろう。 タイタン、つまりティターンはオリュンポス十二神に先立つ古代の巨神一族であり、その末子クロ………………~続きを読む~
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第四十九椀 お疲れに「レバニラ炒め」。心身のストレスもすっ飛ばします

 疲れた。 あんまり疲れた疲れたと口に出すのもよくないのだけど、今日はほんとうに疲れてしまった。 会社ではこってりと神経をすり減らし、ようやく仕事を終えて家路につくと、そんな時に限って電車はいつにも増して混んでいる。 超満員、乗車率120%、立錐の余地もない、さまざまな表現があるけれど、実際に経験しないとわからないだろう。 人間同士が直方体の箱にぎゅうぎゅう詰めになり、四方八方から圧迫されて、とんでもない格好のまま………………~続きを読む~
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第五十椀 囲もう鉄板!「お好み焼き」。伊緒さんの従姉妹、瑠依さん登場

 お家に帰ると伊緒さんが2人いた。 「おかえりなさい」 と同時に声をかけられて、少々たじろいでしまう。 白いワンピース姿でニコニコしているのは、いつも見なれたぼくのお嫁さんである伊緒さんだ。 黒に見えるような濃紺のチュニックをまとった方の伊緒さんは、怜悧な表情で「ごぶさたです。お邪魔しています」と言ってぺこりとおじぎをした。 一見そっくりな2人だけど、黒伊緒さんは縁なし眼鏡の奥に切れ長の目、そしてにこりともしないク………………~続きを読む~
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箸休め ところてんは何の味?酢醤油vs黒蜜、文化の違いが面白いのです

 北国も北国、日本列島のとっても北の方で育ったわたしは、縁あって関西育ちの男性と結婚しました。 お互いに異なる文化圏で育ったわたしたちの結婚生活では、主に食文化の面でいろいろとおもしろい食い違いが生じたのです。 まず、味付けの濃い・薄い、という問題がありました。 結婚当初、彼にとってわたしの味付けは濃すぎるようで、でも希望通りにすると「味がしねえ」と思ったものでした。 ところが慣れというのはたいしたもので、いまやわ………………~続きを読む~
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第五十一椀 「たまご焼きのサンドイッチ」。一緒に博物館へ行きましょう

 歴史ライターのお仕事をしている伊緒さんが、もともとどんな時代やモノに興味があったのか、これまで考えてみたこともなかった。 ぼくももちろん歴史は好きなのだけど、それは坂本龍馬が好き、とか織田信長が好き、といったくらいの淡くささやかなものだ。 小説の設定として幕末史に焦点を当てたことがあるけれど、それはあくまでも取材であって研究ではない。 でも、伊緒さんがしていることは研究だったということにようやく気が付いた。 先日………………~続きを読む~
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第五十二椀 「揚げナスの田楽」。伊緒さんの研究は”精進料理”がキーワード

 まったく思いもかけず、彼から博物館に考古遺物の特別展を見に行こうとのお誘いを受けたのは、わたしにとってものすごくうれしいことでした。 考古学は専門ではありませんでしたが、学生のとき最初に習った概論を思い出し、夢中になってしゃべりながら彼と観覧したものです。 それはわたしにとって、古代の人がつくりだした数々のモノが放つ存在感に畏敬の念を新たにし、歴史を学び始めた頃の新鮮な感動を呼び起こしてくれる体験になりました。 ………………~続きを読む~
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第五十三椀 お祝いの「大盛りエビチリ」。文学賞でいいとこまでいきました

 応募していたある文学賞で、最終選考まで残った。 ぼくがいくつかの作品を発表している、小説投稿サイトが主催する文学賞だ。 これまでは三次選考通過というのが最高記録だったので、一歩前進したという確かな手応えを得ることができた。 まだなじみの浅い新しい文芸ジャンルの賞だったけれど、作品の応募総数は500点を超えるという盛況ぶりだった。 最終選考に残ったものは大賞候補作品とされ、その7作品のうちのひとつにぼくの小説が選ば………………~続きを読む~
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第五十四椀 ほっこり郷土料理「茶粥」。伊緒さんも落ち込むことがあるのです

 ちょっと落ち込んだせいか、めずらしくカゼをひきました。 わたしは在宅で歴史関係の記事を書くライターをしていますが、お家にいるばかりではなくて、ときおり取引先の方と対面しなくてはなりません。 企画会議であったり、打合せであったり、内容はさまざまですが気が重いときもあるのです。 わたしが関わっているお仕事では通常、編集プロダクションなどが請け負う場合はチームで動くのがセオリーです。 編集者・ライター・校正校閲者が一組………………~続きを読む~
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第五十五椀 2度づけ厳禁!「大阪名物・串カツ」。でも夫婦なら大丈夫です

 「事実は小説よりも奇なり」という言葉があるけれど、まさかと思うような出会いを経験した。 それは仕事で大阪のある出版社を訪ねたときのこと。 ぼくの勤める会社では社史の制作サービスも行っており、創業者の方に取材をするためその会社を訪問したのだった。 大阪の都心部というのは、多くのイメージに反して実はすっきりと洗練された雰囲気をまとっている。 その昔「水都」と呼ばれた名残りで"~橋"という地名が多く、かつては縦横無尽に………………~続きを読む~