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第19膳 給食メニューは何が好き?……って、ええ!そんなの出たんですか

 お家の近くにスーパー銭湯があって、時おり伊緒さんと浸かりにいくのを楽しみにしている。 どういうわけか銭湯では風呂上がりに必ず牛乳を飲みたくなって、それがひそかな喜びともなっている。 そこの牛乳は昔ながらの瓶詰めで、プラスチックのキャップではなくってレトロな紙製のフタが付いているのだ。 こんなものがよくまだあったな、と嬉しくなって、ついつい童心にかえってしまう。 牛乳瓶の紙のフタは、千枚通しみたいな針を突き刺して取………………~続きを読む~
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第20膳 やっぱり〆にはお米でしょう!タラコのせたり、たまごかけたり

 この世でいちばんおいしいものは何か? 人類史はじまって以来のそんな問いに、あまたの聖人賢者たちが心を砕いてまいりました。 その答えにはさまざまなものがありますが、わたしが大好きなエピソードを二つご紹介したいと思います。 一つ目はかの"東照大権現"、徳川家康にまつわるお話です。 あるとき家康さんは居並ぶ家臣と戦談義をしていましたが、唐突に「この世でいちばんうまいものは何だと思う?」という問いを発します。 剛勇無双の………………~続きを読む~
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【WEB小説】『伊緒さんのお嫁ご飯』 ―目次―

貴女がいるから、まっすぐ家に帰ります――。 伊緒さんが作ってくれる、おいしい「お嫁ご飯」が楽しみな僕。子供のころから憧れていた小さな幸せに、ほっと心が癒されていきます。 ちょっぴり歴女な伊緒さんの、とっても温かい料理のお話。 「第1回ライト文芸大賞」大賞候補作品。「エブリスタ」「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載中です! 目次 ………………~続きを読む~
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第一椀 伊緒さんのカレーはどういうわけか、初日から二日寝かせた味がする

 今日の晩ごはんはなんだろうなあ、と、楽しみにしながら帰るなんて子どもの頃には考えられないことだった。  両親はバリバリの共働きだったし、低学年からずっと塾通いだったので、家族で食卓を囲んだ記憶はほとんどない。  夕食はコンビニ弁当か、母が作り置きしてくれた簡単なおかずとおにぎりを、塾で食べるのが普通だった。  自分の周りの子どもたちは皆同じような感じだったので、特段それが変だと思ったことはなかった。  でも、塾へ………………~続きを読む~
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第二椀 「君の味噌汁を毎日飲みたい」と言われても、実はすごくたいへんなのでは

 伊緒さんにどういう感じでプロポーズしたのか、実はほとんど覚えていない。 その前後の記憶があいまいな理由はまあ、おいおいお話しするとして、何やらしきりに「味噌汁」のことを言っていたのだという。 「君の味噌汁を毎日飲みたい」 というプロポーズの文句は、もはや無形文化財ともいえるほど伝統的かつレトロなもので、この封建的なセリフが僕は大嫌いだった。 考えてもみれば、これは家庭に入った女性が食事を支度して、しかも味噌汁とい………………~続きを読む~
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第三椀 伊緒さんのハンバーグは子どもはおろか、大人だって小躍りして喜ぶのだ

 およそ「子どもが喜ぶ」といわれるメニューには洋食が多い。 カレー、スパゲティ、オムライス、エビフライ等々、どれも食べやすくて味付けもきっぱりと分かりやすく、何よりそこはかとない華やぎのようなものがある。 子どもの頃の僕は、こういったメニューに喜んでみせることを、とても恥ずかしいことだと思っていた。 子どもだからエビフライが好きだろう、オムライスがいいんじゃないか、とたまに会う親戚の大人たちが気遣ってくれたりするの………………~続きを読む~
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第四椀 「副菜」と呼ばれる小鉢には、伊緒さんの愛があふれていました

「これ、ものすごくおいしいです」 僕はそう言って、しげしげと箸でつまんだ緑の野菜を観察した。 「そう、よかった」 伊緒さんがいつものとおり、テーブルの向かいでにっこり笑う。 ほうれん草よりもうちょっと無骨で、なんとなくとっつきにくい様子の葉物野菜。 栄養は満点だが、やや人付き合いが苦手で、そうやすやすとは他の料理に参画してくれない。 比較して申し訳ないけど、たとえばほうれん草だったらおひたしでもバター炒めでも、お味………………~続きを読む~
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第五椀 「レバーの唐揚げ」。敬遠していたレバーが、大好物になりました

 食べものの好き嫌い、というのは少ない方だと思うのだけど、レバーはどうにも得意ではなかった。 肉ともホルモンともつかない不思議な食感で、噛めば噛むほどもっちゃりと口中の水分を奪われる感じが好きになれなかった。 しかも、調理がまずいと生臭さがツンと鼻に抜けて、もう食欲をなくしてしまう。 僕だけじゃなくて、レバーが苦手だという人は結構多いんじゃないかと思う。 でも・・・。 「わあ、今夜は鶏の唐揚げですか!」 目の………………~続きを読む~
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箸休め 「〆のお茶漬け」、僕だってたまには付き合いで遅くなることもあるのです

 僕は小さな小さな出版社に勤めている。 社史とか自分史とかを主に扱う会社で、かっこよく言えば「書籍編集者」という職業だ。 でも零細なので、実際には取材から簡単なライティング、編集に校正、印刷手配まで、つまり何でも自分でやらなければならない。 と、言いつつも僕はこの仕事をとても気に入っていて、なんだかんだで楽しくやっていけているのは幸せなことだと思う。 職業柄、いろいろな人と関わることになるので、お酒の席へのお誘いも………………~続きを読む~
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第六椀 「小鍋立て」はワケあり男女の、大人のおままごとだそうな

 しっかりご飯を食べるにはちょっと空腹度が足りなくて、でも食事はしたいなあ、というややこしい腹具合のときがある。 お休みの日なんかに伊緒さんと一日過ごしていると、おなかの空き方もだいたい似てくるようで今日はふたりともまさしくそんな気分だった。 「一度やってみたかったことがあるんだけど、付き合ってくれる?」 腹案があるらしい伊緒さんが、楽しげにエプロンを身に付けてキッチンに立った。 そんな彼女の姿を見ているだけで僕は………………~続きを読む~