歴史・時代小説の創作テクニック6選!効果的な架空キャラ設定や「資料」と「史料」の扱いなどを解説
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第七椀 「とろふわ朝食たまご」。シンプルな料理ほどむずかしいのは本当です
伊緒さんも僕もお米が大好きなので、ふだんの主食はほとんどご飯だ。 でも、ふたりで寝坊できるお休みの朝なんかは、無性にパンが食べたくなってしまう。 トーストの焼き加減は、伊緒さんはほんのりと。僕はこんがりと。 トースターの前でじぃーっと目を光らせて、ベストなタイミングで取り出すのは僕の役目。 あとはその時の気分でコーヒーか紅茶を選ぶのだけど、伊緒さんはどちらかというと紅茶党で、僕はコーヒー党だ。 今朝は珍しく伊緒さ………………~続きを読む~
第八椀 「ごちそうチキンカツ」。給料日前でも、伊緒さんの手にかかればこの通り
僕の安月給でも何とか生活ができて、おいしいご飯を食べられるのは、ひとえに伊緒さんが上手にやりくりしてくれているおかげだ。 でもさすがに給料日前ともなると、懐具合がさみしくなってあと何日、あと何日と指折り数えて支給日を心待ちにしてしまう。 一人暮らしをしていた頃はその度合いがもっと顕著で、今の会社に入って一年目の、最初の給料日直前には冗談じゃなく本当に野草を摘みに行った。『食べられる野草・シティ編』という、ものすご………………~続きを読む~
第九椀 直球の「肉じゃが」。男はなぜこうも、この料理に弱いのか
男はなぜ、「肉じゃが」に弱いのか? 天保年間に始まったという「彼女に作ってほしい手料理ランキング」では、爾来150年の長きにわたって不動の王座に君臨し続けている暴君だ。 そのあまりのベタぶりに、世の女性はうっかり「得意料理は肉じゃがです」などと口にするのもはばかるという。 肉じゃがそのものは決して難しい料理ではない。 基本組成はカレーとほぼ同じであり、カレールーがないことに気づけば最初からこうするつもりだったんだ………………~続きを読む~
第十椀 「ミートボールスパゲティ」。伊緒さんはあのアニメが大好きなんです
伊緒さんは実はアニメが大好きで、特に不思議な森の精や浮遊する古代都市なんかが出てくる、某監督の作品は子どもの頃からのファンなのだという。 休日の前夜なんかにはよく、お菓子をつまみながらふたりでノートパソコンの画面を前に、そんなアニメ映画を観たりする。 その作品群では、ことに食事のシーンが印象的で、何回観ても思わず「おいしそう!」とふたり同時に叫んでしまうほどだ。 伊緒さんが特にお気に入りなのは、ひょうきんな紳士と………………~続きを読む~
箸休め お出かけしたら、伊緒さんだってたまにはジャンクフードも食べます
伊緒さんと知り合った頃、 「なんておいしそうにご飯を食べるひとなんだろう」 と思ったものだった。 当時はもちろん、たいしてお金があるわけでもなく(今もそうだけど) 、デートの食事といってもファミレスとかファーストフードとか、頑張ったところでパスタのチェーン店などにたいそうお世話になっていた。 でも、伊緒さんと一緒にとる食事は、何であろうと本当においしかった。 例えばジャンクフードなんかは、おいしいとかどうとかいう………………~続きを読む~
第十一椀 筑前煮からの「リメイク酢豚」。2度おいしくて余りも出ません
「ごめんね、ちょっと作りすぎちゃったみたい」 伊緒さんがぺろっと舌を出しつつ、申し訳なさそうにそう言った。 「そんなことないです!すごくおいしいですよ」 慌ててぼくが否定したけど、目の前のお皿には珍しく料理が残っている。 たいがいは食べきってしまって、もっと食べていたいなー、と思うような余韻にひたることが多いので、これはとてもレアなケースだ。 「晃くんくらいの年齢の男の子が、こういうのをモリモリ食べるわけないわよね………………~続きを読む~
第十二椀 「ブリの刺身→ヅケ→照り焼き」。お楽しみの三段活用
数ある魚の中でもブリが一番好きだ。 西の方で育ったぼくにとって、お正月の魚といえばなんといってもブリだった。 見るからに豪勢な姿の大きな魚は、幼いぼくの心に「ごちそう」としてインプットされたのだ。 普段は忙しくて、めったに揃うことのない家族だったが、お正月だけは特別だった。 漁師町で育った父は平凡なサラリーマンになったが、見事な包丁さばきで魚をおろすという特技を持っていた。 そこで年末には奮発してブリを一本まるま………………~続きを読む~
第十三椀 風邪ひきの「とうふ雑炊」。心も体もぽかぽかです
すごく久しぶりに風邪をひいてしまった。 仕事にも差し支えるし、しんどいのも嫌だし、なにより伊緒さんにうつしたりしたら大変なので細心の注意を払っていたのに。 金曜の夕方あたりから不気味な悪寒が背中を這い登り、早めに帰宅したものの伊緒さんの顔を見て安心したのか、どっと具合が悪くなった。 咳はないけど頭にぼんわりとモヤがかかったような感じがして、体温計には「38℃」と表示されている。 すごい高熱、というわけではないけれ………………~続きを読む~
第十四椀 おでんの地域差はもはやカルチャーショック!さて、何入れる?何かける?
北国で育った伊緒さんと、西の方で育ったぼくとは、しばしば文化的な差でお互いに困惑することがある。 たとえば二人ともあんまり方言を使わないように(本当によく分からないから)しているのだけど、たまにはぽろっと出てしまう。 何かの折にぼくが伊緒さんに、 「あんじょうしたってな」 と言って、不思議そうな顔で見つめ返されたことがある。 よきに計らってくださいネ、というニュアンスはすぐ説明できたけど、「あんじょう」の意味はぼ………………~続きを読む~
第十五椀 かさ増し「サイコロステーキ」。急にいい肉が手に入ったら、逆に怯えます
ぼくが勤める会社では、年末になると「ビンゴ大会」というものが開かれる。 といっても、会社宛に届けられたお歳暮とか記念品とかに社長がちょいと色を付けて景品を追加して、社員に分けるというイベントだ。 これが結構楽しくて、くじ運のいいぼくはこれまでにハムとかカニ缶とか、一人だったら絶対買うことのないようなものをいただく機会に恵まれた。 伊緒さんのもとに景品を持って帰るのは今年が初めてなので、さて何が当たるかなあ、と無邪………………~続きを読む~
箸休め 真夜中のラーメン、その魔力にひざまずきます
ぼくには秘密の趣味がある。 友人にも会社の同僚にも打ち明けたことのない、密やかな楽しみ。 何とすれば、ただひたすら恥ずかしいのだ。 それは、小説を書くこと。 この世でただ一人、伊緒さんを除いて誰にも知らせたことのない、ぼくの趣味だ。 伊緒さんと仲良くなったのも、もともとは文章を書くことがきっかけだった。 ぼくが今の会社に入る前、派遣社員として出版や印刷の業界で校正やライティングをしていたとき、同じ職場でチームにな………………~続きを読む~
第十六椀 こっくり濃厚「クリームシチュー」。でもみんな主食はどうしてるんだろう
北国の女性のつくるクリームシチューはおいしい。 という、勝手なイメージが刷り込まれたのは、子供の頃にみたCMのせいだろうと思う。 一面の雪景色のなか、ぽわっと橙色の灯りがともる。フォーカスしていくと雪に埋もれたお家があり、光は窓から漏れ出たものだ。 なかには懐かしい(生でみたことないけど)だるまストーブが熾り、その上にはお鍋がかけられていてクリームシチューが温かな湯気を上げている。 そしてたしか、髪が長くて色の白………………~続きを読む~
第十七椀 酒飲みのための「吸いもの鯛しんじょ」。伊緒さんには長老方も骨抜きです
これはぼくが伊緒さんと結婚する直前のお話。 ぼくの両親は早くに亡くなったので、結婚の報告のため祖父母のもとへ、伊緒さんと一緒に行ったのだった。 父と母は、瀬戸内の小さな島でともに育った幼なじみだったそうだ。 それぞれの実家も目と鼻の先で、島の多くの男たちがそうであるように、どちらも鯛釣りをなりわいとする漁師の家だった。 そういうわけで僕の父は魚のさばき方がうまかったのだけど、漁師の跡継ぎになるのが嫌で島を出たのだ………………~続きを読む~
第十八椀 江戸料理「林巻き大根(りんまきだいこん)」! 伊緒さんの得意技です
やたらと何かをあげたくなってしまう人、というのが確かに存在している。 ちょっとしたお菓子だとか、旅行のおみやげだとか、ガチャガチャでかぶったフィギュアだとか、とにかく何かをプレゼントして喜ばせたくなるという人だ。 その点に関していえば、伊緒さんはまさしくそういった人種の典型だと思い知らされる。 ぼくも彼女と付き合う前には、さもたまたまポケットに入っていましたので差し上げましょう、という体を装って渡すために、常に何………………~続きを読む~
第十九椀 ほろほろ、トロトロ「豚の角煮」。あの家電でできるんですね
ただならぬオーラが炊飯器から立ち上っている。 いま書いている小説の筆が珍しく進んで、気がつくともう真夜中になっていた。 とたんにおなかがグウ、と鳴って、はてさてご飯が残っていたらお茶漬けにでもさせていただこうかしらん、と台所に忍び込んだのだ。 今日は納期の迫ったライティングの仕事はないと言っていたので、伊緒さんはもう眠っているはずだ。 彼女を起こさないようにそーっと、そーっと、足音を忍ばせて、炊飯器に目をやったの………………~続きを読む~
第二十椀 伊緒さんの「ちゃんこ鍋」。相撲の歴史もお勉強します
伊緒さんが珍しくヘッドフォンを着けて、パソコンの画面を食い入るように見ている。 どうしたんだろうと思ってじっと観察していると、彼女は小さなこぶしを握り締めてぷるぷる震わせながら、どうやら何かの勝負を観戦しているらしい。 一試合そのものはそんなに長くはないようだ。 なぜそんなことが分かるのかというと、伊緒さんがハッと息を呑んで口を真一文字に引き結び、「ップァァァ」と緊張を緩めるまでの時間が短いからだ。 見ていてまっ………………~続きを読む~
箸休め かんたん「チーズフォンデュ」。今日はぼくが伊緒さんを喜ばせます
歴史ライターのお仕事をしている伊緒さんは、完全在宅ではなく時おり取引先の編集プロダクションなどに出向しなくてはならない。 打ち合わせとか、企画会議とかいろいろあるのだけど、たいがい夜遅くなるのでぼくの休日と重なったときはつまらない。 これまではさみしく彼女の帰りを待ちわびて、ドアの向こうに伊緒さんの気配がするやいなや、短いシッポを振り回して一目散に駆け寄っていくというのがお決まりだった。 だが、これからのぼくは違………………~続きを読む~
第二十一椀 渾身の「焼きさば」。火加減にすべてを懸けます
郷愁を誘う夕食どきの香りといえば「カレー」ともうひとつ、「焼き魚」があげられると思う。 こどもの頃のことだから、まさか特別に焼き魚が好物だったということはないのだろうけど、一人の帰り道でよそのお家から香ばしく魚の焼ける匂いがただよってくるときの、切ない気持ちは忘れようがない。 でも、焼き魚を本当においしいと思ったのは大人になって、結婚した後のことだ。 それまでぼくが知っていた焼き魚というのは、コンビニ弁当の幕の内………………~続きを読む~
第二十二椀 絶技!「パラパラチャーハン」。家庭でもここまでできます
「お店の味」、というものが確かに存在する。 作る量だったりかけられる時間だったり、あるいは調理設備の問題だったりと要因はさまざまだけど、なかなか家庭では再現が難しい料理の数々だ。 でも、料理技術の発展や情報開示の進捗、そしてたゆまぬ創意工夫と研究の成果によって、限りなくプロの味に肉迫してきた家庭料理もある。 その最たるもののひとつが「チャーハン」であろう。 ぼくがまだ学生だった頃、何度目かの「料理ブーム」とも呼べる………………~続きを読む~
第二十三椀 「きつねうどんとお稲荷さん」。伊緒さんと関西の味
ありがたいことに半分物見遊山のような出張、というのが時たまある。 印刷関係のイベントとか、美術館の特別展とか、お仕事の役に立ちそうなことだったら、出勤扱いで行かせてくれるのだ。 もちろんほとんど自腹なのだけど、仕事柄もあって特別展のチケットなんか持たせてくれることもある。 そんな時はできる限り伊緒さんを誘って一緒に行くことにしている。 ぼくに甲斐性がなく、旅行らしい旅行にはまだご招待できていないことの罪滅ぼしもか………………~続きを読む~