伊緒さんのお嫁ご飯

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箸休め ところてんは何の味?酢醤油vs黒蜜、文化の違いが面白いのです

 北国も北国、日本列島のとっても北の方で育ったわたしは、縁あって関西育ちの男性と結婚しました。 お互いに異なる文化圏で育ったわたしたちの結婚生活では、主に食文化の面でいろいろとおもしろい食い違いが生じたのです。 まず、味付けの濃い・薄い、という問題がありました。 結婚当初、彼にとってわたしの味付けは濃すぎるようで、でも希望通りにすると「味がしねえ」と思ったものでした。 ところが慣れというのはたいしたもので、いまやわ………………~続きを読む~
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第五十一椀 「たまご焼きのサンドイッチ」。一緒に博物館へ行きましょう

 歴史ライターのお仕事をしている伊緒さんが、もともとどんな時代やモノに興味があったのか、これまで考えてみたこともなかった。 ぼくももちろん歴史は好きなのだけど、それは坂本龍馬が好き、とか織田信長が好き、といったくらいの淡くささやかなものだ。 小説の設定として幕末史に焦点を当てたことがあるけれど、それはあくまでも取材であって研究ではない。 でも、伊緒さんがしていることは研究だったということにようやく気が付いた。 先日………………~続きを読む~
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第五十二椀 「揚げナスの田楽」。伊緒さんの研究は”精進料理”がキーワード

 まったく思いもかけず、彼から博物館に考古遺物の特別展を見に行こうとのお誘いを受けたのは、わたしにとってものすごくうれしいことでした。 考古学は専門ではありませんでしたが、学生のとき最初に習った概論を思い出し、夢中になってしゃべりながら彼と観覧したものです。 それはわたしにとって、古代の人がつくりだした数々のモノが放つ存在感に畏敬の念を新たにし、歴史を学び始めた頃の新鮮な感動を呼び起こしてくれる体験になりました。 ………………~続きを読む~
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第五十三椀 お祝いの「大盛りエビチリ」。文学賞でいいとこまでいきました

 応募していたある文学賞で、最終選考まで残った。 ぼくがいくつかの作品を発表している、小説投稿サイトが主催する文学賞だ。 これまでは三次選考通過というのが最高記録だったので、一歩前進したという確かな手応えを得ることができた。 まだなじみの浅い新しい文芸ジャンルの賞だったけれど、作品の応募総数は500点を超えるという盛況ぶりだった。 最終選考に残ったものは大賞候補作品とされ、その7作品のうちのひとつにぼくの小説が選ば………………~続きを読む~
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第五十四椀 ほっこり郷土料理「茶粥」。伊緒さんも落ち込むことがあるのです

 ちょっと落ち込んだせいか、めずらしくカゼをひきました。 わたしは在宅で歴史関係の記事を書くライターをしていますが、お家にいるばかりではなくて、ときおり取引先の方と対面しなくてはなりません。 企画会議であったり、打合せであったり、内容はさまざまですが気が重いときもあるのです。 わたしが関わっているお仕事では通常、編集プロダクションなどが請け負う場合はチームで動くのがセオリーです。 編集者・ライター・校正校閲者が一組………………~続きを読む~
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第五十五椀 2度づけ厳禁!「大阪名物・串カツ」。でも夫婦なら大丈夫です

 「事実は小説よりも奇なり」という言葉があるけれど、まさかと思うような出会いを経験した。 それは仕事で大阪のある出版社を訪ねたときのこと。 ぼくの勤める会社では社史の制作サービスも行っており、創業者の方に取材をするためその会社を訪問したのだった。 大阪の都心部というのは、多くのイメージに反して実はすっきりと洗練された雰囲気をまとっている。 その昔「水都」と呼ばれた名残りで"~橋"という地名が多く、かつては縦横無尽に………………~続きを読む~
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最後の箸休め 伊緒さんが「そうめん」を苦手な理由。里帰りと心の傷あと

 すごく久しぶりに、ひとりで実家に帰った。 従姉妹の瑠依ちゃんのお母さん、つまりわたしの母親のお姉さんがちょっと体調を崩して入院してしまったのだ。 幸いたいしたことはなくて、退院の日取りももう決まっているのだけど、久しぶりなこともあって顔を見に行くことにしたのだった。 ほんとうは夫も一緒だとよかったのだけど、お仕事が忙しくなっているのでしょうがない。 なさけないことに、結婚してからというものひとりで遠出するのが心細………………~続きを読む~
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第五十六椀 梅雨寒の「豚汁」。ひとりになる練習って、何のことだろう

 ――汝、公明の剣を帯びる者よ。    ――誓え、神々への奉仕を。  ――誓え、主への忠誠を。  ――誓え、民への献身を。  ――その身朽ち果てるまで、  ――信義の楯とならんことを。   ひざまずいたぼくの肩口に、細く鋭い銀色の神具がかざされ、祝福の言葉が唱えられた。 「はい、マスター」 ぼくは力強くそう応え、銀色の神具に口づけをする。 騎士叙任の儀。 これを通過してこそ、ようやく一………………~続きを読む~
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第五十七椀 アツアツ「マカロニグラタン」。深夜の帰宅で心に沁みます

 最近急に出張が多くなってきた。 理由ははっきりしていて、ぼくの会社の大阪支店に欠員が出て常駐の編集者がいなくなったためだ。 ぼくが関西育ちだから、という単純な理由だけではないけれど、急遽のサポートのため頻繁に大阪に足を運ぶこの頃だ。 ほかの業界ではどうなのか分からないが、ぼくの会社でやっているような小規模な出版なら、関西の会社がわざわざ関東の業者に発注することは少ないようだ。 できるだけ地元の企業間でやりとりをす………………~続きを読む~
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第五十八椀 とれたて!「夏野菜カレー」。瑠依さんの大学と晃くんの故郷

 大阪出張が金曜にまたがったある週末、土日を利用して関西で伊緒さんと合流することにした。 古都・奈良にある、瑠依さんの勤める大学に行ってみようと思ったのだ。 瑠依さんは伊緒さんの従姉妹で、食文化史を専攻する研究者だ。 伊緒さんにとってはお姉さんのような人で、二人はすごく仲がいい。 激しく人見知りをすることから「借りてきたネコ」と呼ばれているけど、先日一緒にお好み焼きを食べてから、少しぼくにも心を開いてくれたと信じて………………~続きを読む~
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第五十九椀 雨の日の「コーヒーゼリー」。伊緒さんの選択、晃くんの決心

 飲み残しのコーヒーばかりが冷蔵庫にたまっていく。 先日、従姉妹が勤める奈良の大学に一緒に行って以来、夫はさらに忙しくなったようだ。 これまでも朝は早かったけど、さらにもう一本前の電車に乗るようになって、慌ただしく出勤していく。 朝食はお家でとらない(会社に行きたくなくなるから、と言っていた)ので、せめてコーヒーだけはドリップして飲んでもらえるようにしている。 たとえ残っても、夫がいればアイスコーヒーにして飲みきっ………………~続きを読む~
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第六十椀 〆 さよなら、それぞれの道へ。最後の「おにぎり」

  がらんとした部屋に佇み、ここで過ごした時に思いをはせる。  決して長くはなかったけれど、濃密でしあわせな、愛おしい日々。  毎日のようにおいしいご飯をつくって、彼女が待っていてくれた場所だ。  ここには小さなテーブル、ここには小さな衣装ケース、そしてここには二人分しか入らない小さな食器棚。  たしかにずっとそこにあったはずの家具なのに、すべて運び出された後ではもう、記憶を辿るよすがすら薄れてゆく。  何かをやり………………~続きを読む~
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水果 ゆめの庭の「夏みかんシャーベット」。物語は続きます

 ようやく直しが終わった原稿の束を抱えて、2階の書斎から階下へと降りていった。 リビングから外を見やると、薄暗がりに慣れた目には世界が一瞬真っ白に感じられる。 やわらかな陽の差す庭にはたくさんの樹が植わっていて、ぼくたちは四季折々の花や実を楽しみにしていた。 サンダルをつっかけて庭に出ると、一本の樹ががさごそと揺れている。 「あ!見つかった!」  笑って木陰から出てきたのは伊緒さんだ。    その腕には、太陽をその………………~続きを読む~
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